VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

影をなくした男

影をなくした男(29)

「影をなくした男(28)」からのつづき…… by M.O. バスを降りて 駅のコンコースの人ごみを歩きながら、 誰かが少しでも 自分の体に触れようものなら、 わたしは全ての怒りを その者にぶつけてやるつもりでした。 それどころか、 そこに爆弾でもあれば、 そこ…

影をなくした男(28)

「影をなくした男(27)」からのつづき・・・ by M.O. 記憶をひもとくことは、 滅びへ向かう旅路のようでした。 実際、当時のわたしは それまでやってきたことができなくなり、 社会生活から一歩一歩遠ざかっていたのです。 そのことがすでに それまでの自分…

影をなくした男(27)

「影をなくした男(26)」からのつづき・・・ by M.O. 医療機関のデイケアに通いながら、 わたしは記憶を探り続けました。 ジェノグラムで家系図を作成するのに、 痛む頭を絞りながら、 必死の思いで 親戚やいとこの存在を思い出しました。 多くのいとこがい…

影をなくした男(26)

「影をなくした男(25)」からのつづき・・・ by M.O. 幼いころの記憶をたどれないわたしは、 治療ミーティングで他の人の話に耳を傾けました。 20代前半の若い女性が、 涙ながらに自分の事を必死に話している姿を見て、 胸をうたれました。 「あんなに若い…

影をなくした男(25)

「影をなくした男(24)」からのつづき・・・ by M.O 前回 「ひとりきりの孤独な旅路をたどる」と、 書いたところで終わりました。 それから、ずっと気になっていたのですが、 本当は、 一人でも孤独でもなかったとも思うのです。 その頃のわたしの生活は、…

影をなくした男(24)

「影をなくした男(23)」からのつづき・・・ by M.O. 指輪をこの世から消し去るためにフロドは、8人の仲間と共に旅に出ます。 しかし、一行の導き手である魔法使いは、魔物との戦いにおいて奈落へと落ち、敵の不意打ちを受けて誇り高き武者は倒れ、一行は離…

影をなくした男(23)

「影をなくした男(22)」からのつづき・・・ by M.O. 医療機関のデイナイトケアへ行こうとして 雨の中を電車の駅まで歩いて調子がおかしくなり、 それでも電車に乗ろうとする自分をなだめて、 アパートへ引き返しました。 部屋に戻り、震える体の弱さを罵り…

影をなくした男(22)

「影をなくした男(21)」からのつづき・・・ by M.O. わたしのアディクション行為は、 「頑張る」ことでした。 「頑張れ」ば状況を変えられる と思いこみ、 努力と意思、自分の力を盲信してきたのです。 力の指輪こそ、持っていませんでしたが、 自分の力を…

影をなくした男(21) 指輪物語

「影をなくした男(20)」からのつづき・・・ by M.O. 『指輪物語』の小さな指輪は、 宝石も装飾もない、 シンプルな金の指輪でしたが、 その美しさに見る者は魅了されます。 一度、指輪の虜となると、 もはやその指輪のことを 忘れることはできず、 指輪を…

影をなくした男(20)

「影をなくした男(19)」からのつづき・・・ by M.O. 私はかつて日本各地を放浪し、 世界のいくつかの国を旅してきましたが、 鬱の森をさまよい歩いた時ほど、 心細く、起伏に富み、 深淵な旅路はありませんでした。 その旅路で、 時には心の支えとなり、 …

影をなくした男(19)

「影をなくした男(18)」からのつづき・・・ by M.O. 冥王が探し求め、 壊すことも捨てることも 隠しておくことも不可能な指輪を、 この世からなくす唯一の方法が、 指輪が鋳造された 黒の国の中心に聳え立つ、 滅びの山の精錬所、 マグマわき立つ火の裂け…

影をなくした男(18) 指輪物語

「影をなくした男(17)」からのつづき・・・ by M.O. うつ病との診断を受けてから、 長い時間、 治療中心の生活を送った中で、 私は たくさんの子供向けの本を読みました。 中でも印象に残っている本が 『指輪物語』です。 ご存知の方も多いと思いますが…

影をなくした男(17) 鬱の闇

「影をなくした男(16)」からのつづき・・・ by M.O. じっとしているうちに、 やがて、闇は煙がかき消えていくように、 音もなく去ってゆくのでした。 そのことを、 何度か経験するうちに、 わたしは、 闇をそれまでのようには 恐れなくなり、 闇に体を預…

影をなくした男(16)

「影をなくした男(15)」からのつづき・・・ by M.O. わたしをしばしば襲ってくる 「鬱の闇」のことは、 主治医にも話しました。 しかし、主治医の反応は あやふやでしたし、 ミーティングでも なかなか話せませんでした。 そこでわたしは、 「鬱の闇」と…

影をなくした男(15)

「影をなくした男(14)」からのつづき・・・ by M.O. その頃、私には 闇が胸の中からせせりあがってくようなことがあり、 たびたびその闇に 飲み込まれるような恐怖に襲われていたのでした。 わたしはそれを 「鬱の闇」 と名付けてとても恐れていました。…

影をなくした男(14)

「影をなくした男(13)」からのつづき・・・ by M.O. そんなふうにして クリニックのデイケアへ通う一方、 本は読み続けました。 「影」の正体を突きとめたい と考えるようになってからは、 「影」がつく本を探しました。 しかし、 どんより曇った鈍い頭…

影をなくした男(13)

「影をなくした男(12)」からのつづき・・・ by M.O. そんなある日、 クリニックの食堂で 定食を食べているときに、 涙がこみ上げてきました。 食事がおいしいかったのです。 「おいしい」 と感じる感覚が新鮮でした。 同時に、 精神病院の食事に 感動し…

影をなくした男(12)

「影をなくした男(11)」からのつづき・・・ by M.O. 当時、わたしは、 NPOの世話人、 寺での農作業のアルバイト のほかに 保育士の資格を目指して 通信教育を始めたところでした。 「仕事をしていないのだから、 これくらいはやらなくちゃ。 せっかく時…

影をなくした男(11)

「影をなくした男(10)」からのつづき・・・ by M.O. クリニックのプログラムを選ぶ時に 「何をやりたい?」 と聞くと、インナーチャイルドは 「絵かきたい」 と言いました。 わたしは面喰らいました。 絵なんて中学生以来描いていないし、 絵を描いて褒…

影をなくした男(10)

「影をなくした男(9)」からのつづき・・・ by M.O. わたしは、初めのうちは 2週間に1度の診察日にデイケアに参加し、 少しずつプログラムを増やしていき、 自分に馴染むグループを見つけていきました。 選択の際に、 インナーチャイルドに導かれることも…

影をなくした男(9)

「影をなくした男(8)」からのつづき・・・ by M.O. クリニックへ通い始めて間もなく、 私はデイケアに参加するための オリエンテーションを受けました。 オリエンテーションの担当者は 肩や腕に筋肉がムキムキとついた、ラフな格好の長髪の若い男性でした…

影をなくした男(8)

「影をなくした男(7)」からのつづき・・・ by M.O. その会社の内定が決まるまでは 半年以上かかったのですが、 病気のことを打ち明けて 内定を取り消されるにはたった一日でした。 現実は厳しいのです。 そして、自分はとうとう ダメ人間になってしまった…

影をなくした男(7)

「影をなくした男(6)」からのつづき・・・ M.O. 電車に乗って、 子どものころに 住んでいた町へ行って、 自分が通っていたはずの 小学校や幼稚園まで 行ってみましたが、 自分がそこで どのように過ごしたのか 自分がいったい どのような子供だったのか …

影をなくした男(6)

「影をなくした男(5)」からのつづき・・・ M.O. 思い返すと、わたしは、 前へ前へと 人生を急いで進んできました。 まるで何かから逃げるように。 その何かが自分の影だったのではないか? しかし、その影の正体まではわかりません。 影というのは、 黒く…

影をなくした男(5)

「影をなくした男(4)」からのつづき・・・ M.O. うつ状態のわたしは、 ぼやけた頭で何度もその童話 「影をなくした男」 を読み返すうちに、 はたと心に思い当たることがありました。 自分も影をなくしたのではないだろうか? ではその影とはなんだろう? …

影をなくした男(4)

「影をなくした男(3)」からのつづき・・・ M.O. そのひとつに『影をなくした男』という本がありました。 ひとりの貧しい男が、 悪魔と取引をして、 自分の影と交換に 金貨がいくらでも出てくる袋を手に入れます。 男は大金持ちになり、 大きなお屋敷に住…

影をなくした男(3)

「影をなくした男(2)」からのつづき・・・ 一日のほとんどを 布団の中で過ごし、 子どもの本を読み、 眠り、 目が覚めて、 また本を読む、 という暮らしの繰り返し。 少し調子がよくなると、 町に出て映画を見て、 もう少し良くなると就職活動をして、 ま…

影をなくした男(2)

「影をなくした男(1)」からのつづき・・・ M.O. 「よく気がついた。 では動くのを抑える薬を出そう」 という医師の言葉に 不安を抱いたわたしは、 その医院に通うのを止め、 保健所の相談日に出かけ、 地元の別な医院を受診しましたが、 どこもぱっとしま…

影をなくした男(1)

鬱・物語との出会い<1> 影をなくした男 M.O. 駅裏にある精神科を受診して、うつ病と診断されたのは2003年の秋でした。 その年の夏に、仕事の契約が終了し、次の就職先を探していた時です。 おかしいようですが、わたしはうつ病との診断名を聞いてほっとし…

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