VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

無差別殺人犯を読む(19)つまようじ少年とシャルリー・エブド

無差別殺人犯を読む(18)」からのつづき・・・

by ぼそっと池井多

 

 

つまようじ少年が逮捕されて3日が経ち、
イスラム国の人質事件のニュースが入ってきたこともあって、
すでに世間ではこの「つまようじ」の話題は忘れられてきた。

つまようじ少年とシャルリー・エブド事件は遠くつながっており、
シャルリー・エブド事件と「イスラム国をめざす若者たち」の問題もまた
私の考えでは遠いところでつながっているのだが、
とりあえずつまようじ少年とフランスの事件をむすぶ糸を
今日はたどってみたいと思う。

 

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どうやら「つまようじ少年」は、
万引きも、つまようじの混入も、
じつは「したふり」だけで
実際にはやっていなかったらしい。

一時は、秋葉原事件の再発をほのめかしたが、
けっきょく一人として、
人は殺していないし、傷つけてもいない。

あれだけ
「無能な警察諸君、つかまえてみろ」
などと警察を挑発して、
つかまえられるに値するようなことは、
何もやっていないのである。

「人騒がせな」
と怒る人もいるかもしれない。

じじつ、つまようじ少年の狙いは
この「人騒がせ」にあった。

当初は
少年法を改正するため」
などと大上段にかまえた理由を口走っていたが、
「有名になりたかった」
などと
ずいぶん外皮がめくれてきた。

ようするに、
「人を騒がせたかった」
ということである。
「人騒がせな」と怒っている人は、
みごとに少年の求めに応じているというわけである。

いっぽうでは、
「人騒がせな」
と笑う人も多いだろう。

じっさい、つまようじ少年を笑うのは簡単だが、
逆に、犯罪予告に留まることなく、
じっさいに犯行におよんでしまった秋葉原男などは、
つまようじ少年の爪の垢でも煎じて
学ぶべきところが大いにあるのではあるまいか。


いずれにせよ、このような人騒がせな少年に対して、
警察も何もしないわけにいかないので、
せいぜい偽計業務妨害で立件するなど
苦しい対応をしているのだろう。

少年の供述は、
これから先も、どんどん変わる可能性もある。
しかし、変わる前に警察が
取り調べを打ち切ってしまうのではないか。


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今回の事件もご多分に漏れず、
つまようじ少年の逮捕直後は、
少年が生活保護だの、在日だの、といった情報が
ネット上にとびかった。

その情報が事実であってもなくても、
それがどのくらい今回の事件に関係があるのだろうか。

こんにち、生活保護と在日は、
ネット社会で非難と差別の対象の代表格である。

生活保護も在日も、
それ自体、なんら非難されるべきものではないはずだが、
それぞれが侮蔑と差別の対象の記号として独り歩きをしている。

犯罪をおかした者は、
明確な根拠もなく
「あいつは生活保護だってよ」
「あいつは在日だってよ」
と書かれる。

ほとんどは、署名者のない
無責任なつぶやきである。

 

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それでは、今回のような事件は
生活保護とも在日とも本当にまったく関係ないかといえば、
そう簡単に切り捨てれられない側面があるから厄介である。

それは、つまりこういうことだ。

つまようじ少年は、
なんらかの理由で非常に抑圧されていた少年であることは
ほぼ確かだと思われる。

けっして数値や物件で実証できることではないが、
抑圧されていなければ、
人はあんなことをやらないからである。

こういう言い方は、
ややもすれば、
人間社会の中でさまざまな社会的偏見をうみだしてきた
あやしげな直感主義や主観主義と同じであることは、
重々承知しているとして
論を先にすすめさせていただく。

他の人々と比べて
精神的にすべての方向で満ち足りている人間が
「つまようじ少年」のようなことをするとは、
私はどうしても考えられない。

それは、つまようじ少年だけではなく、
秋葉原男も、黒子のバスケ男も、
無差別犯罪者たちすべてに言えることであろう。

となると、
生活保護や在日という存在は、
抑圧されている側面があるから、
そういう犯行を起こすのに近いところにいる、
という見方も
まったく捨て去ってしまうこともできないのだ。

ひらたく言いなおすと、
生活保護や在日は悪い奴だから犯罪をおかす」
と考える人たちと、
生活保護や在日は社会から抑圧されているから犯罪に駆り立てられやすい」
と考える人たちがいる
ということだ。

両者は同じようだが、ちがう。
紙一重のところもあるが、それでも決定的にちがう。

前者は、対象に悪を見ようとしている。
後者は、対象に共感を見ようとしている。

前者の、
生活保護や在日は悪い奴だから犯罪をおかす」
という考えは、
まぎれもなく偏見であり、
今回のような犯罪や犯罪もどきが起こるたびに、
「どうせ犯人は生活保護だ、在日だ」
などと決めてかかる。

じっさいにそうであっても、なくても、
そういう情報を率先してネットに流すことで、
あたかも自分が社会に参加し、
この社会のマジョリティに
仲間入りさせてもらっているかのような気分にひたるのだろう。


後者の、
生活保護や在日は社会から抑圧されているから犯罪に駆り立てられやすい」
ということは、
つきつめれば、
「なぜ過激派は過激派になるのか」
という問いであり、
「ではどうしたらよいのか」
という解決を考える一歩である
現実直視の一環として考られるのである。

これは、ともすれば差別者に間違えられてしまう危険な立場だが、
リベラルぶって現実を見ないで過ぎ去ろうとするよりは
はるかにマシである。

黒子のバスケ事件の渡邊博史は、
そんな差別を、いわば自虐的に先取りして、
自分のことを「在日日本人」と称し、
「ピョン・パッサ」だかなんだか、
そんなハングル名を名乗ったのだろう。

いずれにしても
生活保護や在日は、
今日の日本社会において一つの記号にされてしまっている。

 

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それが今日のフランス社会においては、
そんな記号が「イスラム教徒」であることが、
先日のシャルリー・エブド事件で
ますます鮮明になった。

イスラム教徒だからテロを起こした」

などと考えられてはたまらないということで、
フランスに住むイスラム教徒たちが
銃撃事件が起こってからまもなく
早々にシャルリー・エブド支持を訴えた。

これはこれで、たいへん勇気ある行いであったと思う。

しかし、こうしたニュースばかり報じられるようになると、
いつのまにか

シャルリー・エブド言論の自由を守った正義の味方であり、
 それを銃撃した犯人たちは狂気にみちた悪者である」

という図式一連の事件が、
国際的に伝わっていき、
フランスのイスラム教徒はしだいに、

「ちょっと待て。
 あなたたち、知らないのかい。
 そもそもあいつらは弱い者いじめの差別主義者だったんだぜ」

シャルリー・エブドを批判するために
デモを繰り広げるようになった。

日本社会における生活保護や在日とまったく同じ地平で語ることはできないが、
フランス社会ではイスラム教徒に対して、やはり偏見があり、
イスラム教徒はとかく嘲笑や侮蔑の対象となっている。

こうしたことが
このままシャルリー・エブド讃歌の中に埋もれてしまってはたまらない、
と在仏イスラム教徒は
基本的な事実関係を掘り返して見せたのだろう。

フランスのイスラム教徒の多くはアルジェリア系である。
アルジェリアは、1950年代までフランス領であった。
ちょうど、日本から日本海をへだてて朝鮮半島があるように、
フランスからは地中海をへだててアルジェリアがあるのだ。
だから、フランスのイスラム教徒の問題は、
日本における在日の問題と通じるところが多いのである。

いくら「言論の自由」と言ったところで、
フランスにおいて圧倒的に数で劣るイスラム教徒が、
キリスト教徒や
ヨーロッパ人の無宗教者、無神論者を揶揄する雑誌を出しても
シャルリー・エブドほど影響力をもたないであろう、
ということも容易に想像できる。

もちろん、
フランスのイスラム教徒と一口にいっても
一枚岩であるはずはなく、
前半の「シャルリー・エブド支持」を訴えたのと、、
後半の「シャルリー・エブド批判」でデモを繰り広げたのは、
同じ人たちでないかもしれない。

しかし、たとえそれが同じ人たちであって、
まったく矛盾ではないと私は思う。

フランスのイスラム教徒たちは、
むしろ、私のいう
「テロを起こさないテロリスト」
として状況を弁証法的に止揚しているのではないか。

それは、圧倒的に数で優位に立つキリスト教徒たちよりも、
はるかに思弁と忍従を要求される立場であろう。

 

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さて、「つまようじ少年」に立ち返ろう。

今回、少年の逮捕によって、たちまち

「あいつは生活保護だってよ」
「あいつは在日だってよ」

などとネットに書きこみをする匿名者の大群に
私はシャルリー・エブドの影を透かし見ながら、

「もし本当にそういう事実があるならば、
 どうしてそうなったのか考えてごらんよ」

と申し上げたいのである。

 

 

・・・「無差別殺人犯を読む(19)-2」へつづく

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