VOSOT ぼそっとプロジェクト

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長男の放逐(67)ザスト被災地支援の内幕<6>お嬢様の大冒険 ~ マカロンの変

長男の放逐(66)」からのつづき・・・
#齊藤學被害 #精神医療被害 #精神療法被害
by ぼそっと池井多
 
 
被災者の方々がお住まいの仮設住宅には
たいてい談話室と呼ばれる一室がある。
そこではよくご老人たちが
昼間に「お茶っこ」、
つまり茶話会をしている。

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私たちのような支援者が、
仮設住宅を訪れるとき
まずはこのような「お茶っこ」におじゃまして、
顔を見知っていただくのが定石であった。
 
手ぶらで行くのは恰好がつかないので、
話のきっかけになるような手土産を
東京からたずさえていく。
 
これがまた、私のような不調法者には
頭を痛める選択であった。
 
「東京○なな」のように、あまりにも有名で、
東京駅から新幹線に飛び乗るときに気軽に買える茶菓子は、
どこの支援団体でも買ってくるため、
被災地にはあふれていた。
それでは「心がこもってない」印象をあたえる。
 
私たちNPO法人ザスト(仮称)が所在する東京港区の一角には
「豆○」という老舗の菓子屋があるが、
毎回毎回そればかりというのもやはり陳腐であり、
支援に手を抜いている印象をあたえる。
 
だから私は、仙台へ発つ前日あたりに
新宿のデパートの地下街をひとり徘徊して、
こんなふうに頭を悩ませるのであった。
 
「今回の訪問では、
 風ヶ谷仮設(仮称)におじゃまする予定だけど、
 あそこの仮設住宅は、
 二宮トキさん(仮名)というおばあさんが仕切り人だ。
 となると、どういう手土産がいいだろうか」
 
オーケストラが指揮者によって音色が決定されるように、
仮設住宅の空気は仕切り人で決定されるところがある。
 
仕切り人は、仮設の自治会長さんや
その奥さんであることが多く、
たいていは震災前にそこにあった集落の地主本家の方である。
 
交通の便が悪い十浜地区でも、
風ヶ谷という集落はとりわけ辺鄙な場所にあった。
 
そういう僻地に住んでいるからなのか、
かえってトキさんは、東京で話題になっている、
けっこう流行の最先端をいく洋菓子がお好きなのであった。
 
そんなことを想い出しながら、
デパ地下を歩いていると、
「雑誌・テレビで紹介されました!」
と派手な看板が出ている洋菓子店にでくわした。
 
暇と金をもてあましていそうな中上流階級のご婦人たちが、
昼間からズラリと行列を作って
さかんにおしゃべりをしている。
並んでいるおばさんの一人に聞いてみると、
ここのマカロンが評判なのだそうである。
 
すぐに売り切れて、
なかなか手に入らない菓子なのだという。
けっこう日持ちもするらしい。
 
「へえ……、よし、風ヶ谷仮設はこれに決まり」
 
と、私も行列の最後尾にまわり、
30分近くならんで一箱買ってきた。
 
というわけで、その二日後、
真子さんの運転するレンタカーで
風ヶ谷仮設住宅にたどりついたときにも、
そのマカロンの一箱は、私の腕に大切に抱かれていた。
 
「ご無沙汰しております。
 この十浜地区に支援でおじゃましております
 東京港区のNPO、ザストでございます」
 
などと、できるだけ腰を低くして入っていき、
 
「これ、つまらないものですが、
 この仮設の皆さまのお口に合いますかどうか・・・」
 
などと言いながら、おずおずと手土産を差し出す。
 
じつは、内心では
ぜんぜんつまらないものと思ってない。
 
どうですか、トキさん。
 あなた、こういうのお好きじゃないですか。
 
 あなたの好みを考えて、
 半日近く新宿のデパ地下をうろついて
 選んでみた手土産なんですよ。
 ぜひ召し上がってください。
 
 そして、ぜひこちらの仮設の人たちにも
 ザストという団体が心のケアに来ているから
 『遠慮なく話してみてけろ』って言ってください
 
というのが本音である。
 
 
「おんやおんや、それはどうもありがとうございます」
 
畳にしっかりと三つ指をついて
トキさんがいただいてくれる。
 
それに続くように、談話室にいた他のおばあさんたちも
いっせいにこちらへ背をかがめて頭を下げる。
 
東北の人々、とくに高齢者は礼儀正しい。
「どこの馬の骨かわからない東京者」であるこちらが
すっかり恐縮してしまうほどである。
 
私は、トキさんの耳に入れたくて、
少しだけ解説をつけくわえた。
 
「これは最近、雑誌やテレビに取り上げられているそうで、
 私がデパートに買いに行ったときも
 ズラリと行列ができていたんですよ。
 きっと流行ってるんでしょうね。
 すぐ売り切れて、なかなか手に入らないそうです。
 お口に合えばいいのですが」
 
解説を聞くそばから、
トキさんの目が新星のように輝いたのを
私は見逃さなかった。
 
やはり、この方はこういうのが好きなのだ。
私の見立てはまちがっていなかった。
これで、この仮設では話の聞き取りはうまく行くだろう、
と私は成功を確信した。
 

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すると、その時である。
 
ふいに横から、
真子さんが一言を放った。
 
それは、まったく予想だにしない一言であった。
 
 
「そんなの…、うちにある!」
 
 
えっ? という感じで、
私も、トキさんも、
また、談話室の後方に固まっていた仮設のおばあさんたちも、
いっせいに真子さんの方を見た。
 
 
うちにある! 知ってる、そんなの
 
 
おいおい、これはいったいどうしたことか。
 
私がつけくわえた
 
「すぐ売り切れて、なかなか手に入らないそうです。」
 
という解説の一言が、
横で聞いていた真子さんのプライドを
刺激してしまったものらしい。
 
もちろん私には、
 
「どうだ、こんなお菓子。
 真子さん、知らないだろう」
 
などというつもりは、一ミリたりともなかった。
 
あくまでも被災地支援に来ているので、
私の視界に入っていたのは、
その場所、仮設の談話室にいたおばあさんたちだけである。
 
真子さんの存在は
ほとんど一時的に忘れていたに近かった。
 
それが、面白くなかったのだろうか。
 
真子さんは、「グルメである」という一点に
ひとかたならぬプライドを持っていた。
 
そういえば、仙台の繁華街、国分町で飲んだときに、
おごってくれた三陸海病院(仮称)の院長も、
 
「親子そろってグルメだから、どういうお店が合うか……」
 
などと言っていたが、
グルメは、塞翁先生ゆずりなのだろう。
 
塞翁先生は、むかし長者番付に載るくらいお金があった時に、
ふと蕎麦が食べたくなって
東京港区からタクシーを拾って
長野県戸隠村まで蕎麦を食べにいってしまったり、
ふと伊勢海老が食べたくなって、
同じくタクシーで伊豆半島まで食べにいってしまったり
したものである。
 
 (少なくとも私は、塞翁先生の口からそう聞いている。)
 
たくさんの患者を相手にして辟易し、
そういうことでしか
生きている実感が得られなかった時代かもしれないが、
とにかく、塞翁先生のグルメぶりは堂に入っていた。
 
しかし、娘である真子さんが、
父・塞翁先生のように
ほんとうに味がわかってグルメであるとは、
どうしても私には思えなかった。
 
真子さんが、仙台の名物、
牛タン焼について講釈を垂れてくれたときも、
どこかで聞いたことのあるフレーズだと思ったら、
ある有名チェーン店の土産物に入っている
栞(しおり)の文章そのままであった。
 
 

せっかく十浜地区のような漁村に入っているなら、
海から獲れたてのカキやホヤを
その場で味わって堪能すればよいのに、
真子さんは、そうした無名で高品質な食の機会には興味を示さない。

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人はみな、
 
「私って、じつはこんなにすごいんです」
 
と誇りたくて、しょうがないものだろう。
 
自分は何者」を示したいのである。
 
女は女なりに、男は男なりに、
子どもは子どもなりに、老人は老人なりに、
みんながみんな、
自分の「すごさ」を周囲に印象づけたくて
うずうずしている。
 
手段は、人によってちがう。
ある人は社会的地位で、
ある人は体力や体格で、
ある人は服装や小物で自分を飾る。
 
真子さんは、グルメ気取りで自分を飾りたいのだろう。
ならば、それはよい。
 
厄介なのは、
私たち支援者と名乗る者は、
被災者、現地住民の方々が
「私って、じつはこんなにすごいんです」
と誇れるように、
陰の黒子として現地に入っているのであって、
そこで自分の「すごさ」を示してしまっては
元も子もない、というところにあった。
 
ゾルゲみたいに被災地をまわる」(*1)
と言っている真子さんは、スパイの行動様式で
被災者情報に外からアプローチするつもりのようであった。
 
 
それは、被災者の方々に
内からアプローチしようとしていた私とは異なる方法論だが、
それはそれでよしとしよう。
 
しかし、自己顕示するスパイなんて
聞いたことがない。
わざわざスパイだと見つかるようなものではないか。
 
……。
……。
 
おそらく精神医学者の世界では
「あの塞翁先生の娘さん」
ということで皆が知っているから、
真子さんは存在をあらためて自己顕示する必要もない。
 
ところが、一人の人間として何の肩書もなしに
こういう場にまぎれこむと、
父の存在に頼らずに
自分は何者
を誇りたくなるのだろう。
 
そこで出てくるのが、
 
わたしはいい暮らしをしている。
 ふだんから良いものを食べている。
 あんたらとはちがうんだよ
 
という押し殺した声であり、それが今回の
 
「そんなの…、うちにある!」
 
になって噴出したのではあるまいか。
 
 
私自身は、塾の先生の第一子であったから、
塞翁先生の第一子という真子さんの立場も、
まるで想像がつかないわけではない。
 
真子さんが若いころは、
塞翁先生の指示によって、ある女性グループに入れられ、
同年代の女性患者にいじめられたこともある、という。
 
現在の真子さんがどことなくかもしだす、
 
「あんたはしょせん患者でしょ」
 
という態度は、そうした
患者からのいじめられ体験への反動として培われたのか、
それとも、もともとそういう態度を取っていたから、
塞翁先生が教育的観点から
真子さんを女性患者グループに入れたのか、
いまの私にはわからない。
 
あるいは、それは
ニワトリとタマゴのように
どちらが先とは決められないものかもしれない。
 
……。
……。
 
 
うちにある! 知ってる、そんなの
 
真子さんの横からの一言で、
一同は興ざめして、
空気の流れが変わった。
 
それまでは、トキさんはじめ仮設のおばあさんたちと、
カロンを差し出した私のあいだで、
一つの風船が育てられていた。
 
価値の風船ともいうべきものが、
両方から空気を送られて、
ふくふくと膨らんでいたのである。
 
 
いってしまえば、たかがマカロンである。
 
しかし、私たちはそこに幻想をこめ、
それを両方から「良いもの」に仕立て上げることで、
心を通わせ、つながりあっていくきっかけを
暗闇の両側から探っていたのであった。
 
ところが、真子さんに横から
 
「うちにある、そんなの
 
と言われたとたんに、
風船は針の穴が空けられて破裂し、
どこの家の台所にも転がっている
大根の切れはしのようになった。
 
せっかく快く納めてくれるところだったトキさんも、
東京からやってきた、娘のような年頃の女に、
 
「うちにある、そんなの
 
などと言われながら、
ありがたくいただくというのは一つの苦行である。
 
私は、被災者のプライドを極力、大事にしてあげたかった。
 
なにも好きで災害に遭ったわけでもなく、
心ならずも「被災者」になり、
「支援を受ける」立場になってしまった彼らのプライドを
大切にしてあげたかった。
 
支援とは、心の交流であるから、
見栄もプライドも考慮に入れて動かなければ
ダメなのである。
 
真子さん、
あなたの家にどんな高いお菓子が転がっているかなんて
誰も聞いていませんよ。
 
あなたはアメリカの大学で心理学を専攻して、
いまはメンタルヘルスの専門会社を経営しているのに、
そんなこともわからないのですか。
 
などと、私もその場で言うわけにいかない。
 
座が、ただ白けていくのに任せるしかなかった。
 
トキさんは、
いまさら私にマカロンの箱を突き返すわけにもいかず、
いまいましげに棚の隅に片づけると、
それ以降、熱のこもった話は双方から出なくなり、
沈黙がとどこおった。
 
私は予定を切り上げて、
早々に風ヶ谷仮設を失礼することにした。
 
「お姫さまの大冒険…」
と私は心の中でつぶやき、
ひそかに頭をかかえた。
 
 
・・・「長男の放逐(68)」へつづく

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ここまでのお話

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  •             

    顔アイコン

    いやぁびっくりしました。そういう落ちだとは。姫社長のお伴は大変ですね。マカロンを買ってお渡しするまでのドラマには実にひきこまれました。そしてまさかの姫様の一言。ガラガラと音はしないまでも崩れおちたものその後の虚しさが伝わってきます。アメリカまでいって心理学を学んだ人がねぇ。「教育は金で買えるけど教養買うことはできない」以前世話になった国際協力NGOの研修で聞いた言葉を思い出しました。
    ごくろうさまでした。 削除

    sma***** ]

     

    2015/10/27(火) 午後 6:25

     返信する
  •             

    sma***** さま コメントをどうもありがとうございます。

    そうなのです。あのときはじつに気まずい思いをしました。
    学問として心理学を習得することや、メンタルヘルスの会社をやっていることと、「人の気持ちがわかること」はまったく違いますよね。そして、被災地支援では後者が求められるのです。

    最近、彼女の会社がさかんに養成している「利ばかりング・アホバイザー」(仮称)というのも、いくら知識を詰め込んだところで、人の気持ちがわからなければ機能しないだろうと思います。 削除

    チームぼそっと

     

    2015/10/27(火) 午後 10:33

     返信する
  •             

    顔アイコン

    ザストのHPから、「ぼそっとプロジェクト」さんのリンクが消えてしまったようですね、

    ザストに運営に大きく貢献された方なのに、このような形になって残念です。

    心理学カウンセリングを職業とされている方たちでも、このような行動をとられるのは寂し気もします。 削除

    AC50 ]

     

    2015/10/29(木) 午前 11:16

     返信する
  •             

    AC50 さま コメントをどうもありがとうございます。

    お知らせいただいて、はじめて知りました。
    お知らせいただいて、どうもありがとうございます。

    私たちのほうには、何ら事前通告はありませんでした。
    患者の自由な言論を封殺する、恐ろしい措置だと思います。
    今年6月の総会では、リンクを元の位置に戻すように正式に要請させていただきましたが、現ザスト執行部であるワイエフエフは、その反対を実施したということですね。

    いまの日本で、このような非民主主義的な所業がおおっぴらに行われていることを、一般社会の人々に広く知っていただきたいです。 削除

    チームぼそっと

     

    2015/10/29(木) 午前 11:49

     
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