VOSOT ぼそっとプロジェクト

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長男の放逐(72)ザスト被災地支援の内幕<10> お嬢様の大冒険 タフな宿泊

長男の放逐(71)」からのつづき・・・

#齊藤學被害 #精神医療被害 #精神療法被害

 

by ぼそっと池井多 

 

「ネットカフェでも寝られるよ」
 
という真子さんの言葉は、
まるでピンボールのフィールドに打ち出された球が、
あちこちのバンパーに当たって反射して、
予想外のスコアを産み出すように、
私の脳裡のここかしこを刺激した。
 
一つめは、「長男の放逐(69)(*1)にも述べたように
真子さん(仮名)のコスト感覚から発展して、
彼女の会社ワイエフエフ(仮称)の経営の批評である。
 
 
 
なぜ、私は株主でもないのに、
ワイエフエフの経営を批評する権利があるかというと、
ワイエフエフはザストを占領し、
私は第二の故郷を追放され、
ほかの多くのザスト会員も
もはや会費を払い続ける意味を見失って、
魂の流浪の民となっている現状があるからである。
 
今日のザストの状況は、
真子社長によるワイエフエフ経営悪化にも
原因をさかのぼれるということは、
長男の放逐(70)(*2)でも述べたとおりである。
 
 
二つめは、一見あっけらかんとした提案にこめられた、
真子さん自身の
 
「自分はネットカフェで夜明かしできるくらいタフな冒険家だ。
 ビジネス・ホテルに泊まらないと
 寝られないなどという奴はヤワだ」
 
というひそかな自己顕示と挑発であった。
 
これがなぜか
はるか昔の私の回想を引き出してきたのである。
 
私の目の前には、
真子さんが運転するクルマの車窓からひろがる
宮城野の風景が流れていた。
 
だが、私の脳裡には、
時間も空間も、まったく遠く離れた場所が、
まるで蜃気楼のように、
すぐそこに手が届くような近さで
鮮やかによみがえっていった。……
 
 
……あれは一体どこであったか。
 
汗がべたつく感覚などは如実に思い出すのに、
場所の名前が出てこない。
 
暑い。
寝られない。
寝袋などひっぺがして、
裸で大の字になって寝てしまいたい。
 
しかし、そんなことをしたら、
さっそくマラリア蚊に身体中を刺されて、
2週間後にはあの世行きだ。
 
そう、あれは
アフリカ大陸の真ん中あたり、
マラウイの国境を越えたところにあった村。
 
満天の星。
村の名前はおぼえていない。
 
あらゆる抗マラリア薬に耐性をつけた
最強最悪なタイプのマラリア蚊が
ぶんぶん飛び交っている地域であった。
 
こんなところで野宿などしたくない、
と思う地域にかぎって、
村には宿屋が一軒もなかったりする。
 
しかたがないから、
肌を露出しないように
すっぽり寝袋に入りこんで野宿する。
 
それでも、息をしなくてはいけないから、
鼻のまわり、顔だけ出して、
寝袋にくるまる。
 
出しているところを蚊に刺されるといけないから、
ヨーロッパ製の防虫スプレーを
3時間ごとに起きて顔にぬりたくる。
 
3時間で、薬の効力が切れるからである。
 
あまり気持ちの良いものではない。
 
スプレーが鼻や口に入ったりすると、
もっと気持ちの良いものではない。
 
そんなことをして、幾晩か
マラリア感染濃厚地帯を南下していったが、
ある晩、3時間ごとに起きるのを忘れて、
朝起きたとき、顔に一発、
蚊に刺されたかゆみを覚えた。
 
死が、頭をよぎった。
 
死が、かゆみという滑稽な形をとっていることが
苛立たしくも思えた。
 
マラリア・ウイルスが身体に潜伏している2週間のうちに、
いざというとき対処できる大きな病院のある都市まで
たどりついておかなくてはならない。
 
滞在計画を変更した。
 
2週間後、私はジンバブエの首都ハラレに着いた。
マラリアが発症した。
 
死の手前まで行ったが、この世に帰ってきた。
 
……。
……。
 
あの宿泊環境は、
ネットカフェどころの騒ぎじゃなかった、
と私は思い出す。
 
私とて、いくらでもタフな宿泊をしてきたのだ。
 
ただ、それが、
母の思う壺になる人生を生きるくらいなら、と、
いわば自傷行為として海外に「死にに行った」末の
夜の乗り越え方であったところが、
真子さんのように自慢話にはならない所以だ。……
 
 
気がつくと、真子さんは
あいかわらず運転しながらしゃべっている。
 
「高いビジネスホテルに泊まったことにすれば、
領収書が出るもんね。
先に東京から予約いれておけばいいし」
 
どういう意味だ?
 
「ネットカフェ宿泊」
の話から流れてきていることは知っているが、
何の話をしているのか、よくわからない。
 
「高いビジネスホテルに泊まったことにすれば」って、
いったい何が言いたいのだろう?
 
ほんとうは泊まっていない、と言いたいのか。
 
そのぶん私が金を浮かした、と考えているのだろうか。
 
私は助手席に座っているので、
お互い顔は見えない。見ない。
 
会話の調子から、
真子さんの言葉の奥にひそんでいる意図を
探り出さなければならない。
 
「領収書が出るもんね。
先に東京から予約いれておけばいいし」
っていうのも、どういうことだ?
 
高いビジネスホテルに泊まった「ことにすれば」領収書が出る?
 
なんだ、そりゃ。
 
「ことにすれば」じゃなくて、
実際に泊まらなければ領収書は出ないだろうよ。
それに、逆にネットカフェだって、
領収書ぐらい出るだろうよ。
 
「先に東京から予約入れておく」ことで、
架空の宿泊ができるのだろうか。
 
よく、世の中の詐欺と呼ばれる事件に関して、
ニュースなどで詐欺のからくりを説明されると、
 
「なるほど。
 そうやれば、そういうこともできちゃうんだ」
 
などと、モラルはさておき、
技術に関してはへんに納得できたりするものだが、
真子さんが暗に「指摘」したつもりになっているらしい
その方法は、
どう考えてみても、技術的に
詐欺として機能することじたい合点がいかないものであった。
 
何を言いたいのか、まったくもってわからないが、
要するに、口ぶりからして、私が
 
「一人で現地往復するときに、
 仙台でネットカフェでなくビジネスホテルに泊まるのは
 宿泊費にあたる金額を少しでも多くチョロまかすためである」
 
と言いたいのだとも取れる。
 
痛くもない腹を探られるようで、
不快であった。
 
というか、あのとき真子さんが言っていた意味は、
三年近く経って、いま思い出しても
やはり正確にはわからない。
 
ひとつ言えることは、
これ以降、ザストでは、
私がザストの金を懐に入れているといった黒いうわさが
立つようになっていった、ということである。
 
もちろん事実無根だが、
これが現在の私のザストからの放逐につながっている、
と考えられなくもない。
 
黒いうわさは、
このビジネスホテル宿泊予約のからくりのように
けっして具体的な疑いのかたちを帯びない。
 
ただ、なんとなく、
「当然そんなことをしてるんだろう」
ぐらいの思い込みで疑いをあてこすられる。
 
私が生活保護を受けるような貧乏人だから、
とうぜん金には飢えている、
と人は考えるのだろうか。
 
それとも、
自分と世界と相手の世界が
頭の中でつながっている真子さんのことだから、
真子さんだったらそうすると考えることは、
とうぜん私もそうすると考えているのか。
 
真子さんの思考経路はわからない。
 
「貧乏人がいつも金を求めている」と考えるのは偏見である。
 
貧乏人はときに、
金持ちよりも金にこだわらない。
 
そして、貧乏人はときに、
金持ちよりも豊かである。
…もちろん、経済的にではなく。
 
そういえば、と
私の脳裡はふたたび
回想の時空へと引き戻されていくのであった。……
 
 
……あれは一体どこであったか。
感じていた寒さなどは如実に思い出すのに、
場所の名前が出てこない。
 
真っ暗で広大な駅構内。
折り重なるように眠るジプシーたち。
ときおりやってくる官憲らしき制服の男。
 
そう、あれはブラチスラヴァか。
今のスロバキアの首都である。
当時はベルリンの壁崩壊の前で、
まだチェコスロバキアの地方都市であった。
 
日本社会から逃げて、外へひきこもるのに際して、
とくに東側の世界を私は好んで放浪していた。
 
当時、社会主義体制の東側は、
西側の日本に住む私からすれば、
「もう一つの世界」
に見えたからだ。
 
むかしの日本人が、
この世の苦しみから逃れるために
やみくもに西方浄土にあこがれるようなものであった。
 
ロシア語がわからない私は、
ときに一晩の宿にもありつけない夜が多く、
ここブラチスラヴァでは、
街のあちこちを宿をさがして歩き疲れ、
真夜中に到って、ついに力尽きて、
ジプシーたちとともに駅で夜を明かすことにしたのだった。
 
ロマたちは盗みや売春や強姦のプロ。
ヨーロッパの市民たちはそう言っていた。
彼らに近づいただけで、何かを必ず盗られる、とも。
 
「ジプシー」という呼称は差別的であるとして、
これを使わないヨーロッパの市民たちは、
それでいてジプシーに関して言っていることは
はるかに差別的なのだった。
 
しかしこの晩、私は
ジプシーたちと身をすり合わせるようにして一晩をすごし、
何の被害も受けなかったのだ。
 
むしろ夜中の3時に官憲に叩き起こされ、
眠くてしかたない目をこすりながら
パスポートや所持金のチェックを強行されたほうが、
よほど私には被害なのであった。
 
昼間は歌い、踊り、占いに熱中するジプシーたち。
彼らの脳裡には、豊かで多彩な世界が展開していた。
 
寒い夜に体温を寄せ合って生きるジプシーたちに
私は自分と同類の人を見た。
 
きっと、この人たちも
何かに虐待されて、それを訴えても聞いてくれる人がおらず、
いつのまにかこんな生活になっていったのではないか、
などと勝手な想像が流れていった。……
 
 
……。
……。
 
車窓には、宮城野がひろがっていた。
 
運転を真子さんに任せっぱなしにして、
てきとうに会話を合わせながら、
あれこれと半生をふりかえっているあいだに、
車は目的地へ近づいていくのであった。
 
 
 
・・・「長男の放逐(73)」へつづく

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    私も4年前セルビアでロマの村を訪ねたことがありますが、彼らは皆純朴で親しみやすい人たちのように見えました。
    でもヨーロッパ人が彼らやイスラム教徒をトータルとして見る場合は仰るような偏見に満ちており、どうしようもないレーシストの障壁を感じました。
    昨夜のパリテロ事件を思い出しました。 削除

    迷えるオッサン

    2015/11/15(日) 午前 11:19

    返信する
  •            

    迷えるオッサンさま コメントをどうもありがとうございます。

    私はひたすら母親の支配を自分の人生から払い落すために、地球上のあちこちを逃げ回っていた感があります。旧ユーゴではベオグラードサラエボ、バニャルカにしばらく滞在していました。私は基本的にうつなので、どの街でもそこでひきこもっていました。移動性ひきこもりです。

    パリでもしばらく沈没していましたが、昨日のニュース映像には私の知る街景も出ていました。このままIS側と大国側との報復合戦になっていかなければよいのですが。 削除

    チームぼそっと

    2015/11/15(日) 午前 11:53

    返信する
  •            

    すごい行動力で、ビックリします。その頃は心の病は発症していなかったのでしょうか?私の場合、心の病の時は今まで出来ていた普通の事が怖くて全て出来なくなりました。ただコンビニに行くだけを何度も自分を奮い立たせないと出来ない…みたいに^_^;

    真子さんとの事?それとも日本の環境?分かりませんが、海外でこんなに行動力がある方が理不尽な世界に潰されるのは悲しい事だと感じます。

    でも、元々は自分自身の意思で何でもやれるお力をお持ちだと思いますので、その理不尽な世界とも負けずに戦われるのかな?って思っています。頑張って下さい^o^ 削除

    myd*7 ]

    2015/11/15(日) 午後 0:01

    返信する
  •            

    myd*7さま コメントをどうもありがとうございます。

    「その頃は心の病は発症していなかったのでしょうか?」
    大変ツボをついた良いご質問なので、いずれ記事にでも仕立てて丁寧にお答えしたいと思いますが、一言でいえば、私はあのころ今よりもひどくバリバリに発症していて、死に場所を求めて世界のあちこちをうろついていたことになります。

    私を突き動かしているのが「行動力」と呼べるのかどうか、自分では皆目わかりませんが、現在の私が患者社会でみている憂き目は、私自身たしかに理不尽だと思います。

    励ましの言葉の数々、本当にどうもありがとうございます。 削除

    チームぼそっと

    2015/11/15(日) 午後 2:06

    返信する
  •            

    ごめんなさい>_<安易にすごいなぁ~と思い質問してしまいました>_<反省です。

    その頃は今より深い部分で、悲鳴をあげていたんですね>_<
    心の疲れが見えないくらい、すごいなぁ~って…その頃も今も…って私は感じてしまったから、私の安易な受け止め方ですね>_<
    本当にごめんなさい>_< 削除

    myd*7 ]

    2015/11/15(日) 午後 11:38

    返信する
  •            

    myd*7さま いやいや何も反省なんてなさらないでください。あなたの質問は、すばらしい精神科医のつっこみのように、
    「そこに私が意識化すべき課題がある」
    と気づかせてくれました。すごく感謝しています。ほんとに。

    「安易な受け止め方」や「素朴な質問」ほど、的を得たヒントはなかったりします。私たちはときどき子どもの素朴な疑問に、行き詰っていた人生を拓かれたりするでしょう。私自身もひごろから、子どものようにプレーンな目で物事を見たいと思っているのですが、なかなか眼が曇っていてそうは行きません>_< 削除

    チームぼそっと

    2015/11/16(月) 午前 0:38

    返信する
  •            

    寛大な心で受け止めて頂きありがとうございます。
    私は時々こう言う事を悪気なくします。自分が感じた事をそのまま伝えます。その人の気持ちも考えずに…>_<ずっとその事を伝えてらっしゃるのだから考慮するべきでした。フォローありがとうございます。でもごめんなさい。やっぱりちょっと反省します>_<そして又、同じ様な質問するかもしれませんが、その時は叱って下さい^_^; 削除

    myd*7 ]

    2015/11/16(月) 午前 1:11

    返信する
  •            

    myd*7 さま どうぞ同じような質問をまたしてください。よろしくお願いいたします。 削除

    チームぼそっと

    2015/11/16(月) 午前 11:02

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