VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

長男の放逐(76)ザスト被災地支援の内幕<14>お嬢様の大冒険~曲がり角の一言

長男の放逐(75)」からのつづき・・・

#齊藤學被害 #精神医療被害 #精神療法被害

 

by ぼそっと池井多 

 

 

「もう二宮さんから電話もらっちゃったりしてぇ…」
 
と、ついつい口走った真子さん(仮名)の言葉を
したたかに聞き捕らえて、
長瀞荘(仮称)の大女将は、
やにわに声を低くして、こう訊いた。
 
「二宮さん?
 この十浜には二宮さんて、たくさんいるけんど、
 どの二宮さんだべか」
 
私は背筋が寒くなった。
 
二宮トキさん(仮名)と真子さん自身のつながりは、
実際はそんなに深いものではない。
 
ところが、このように、
まるで深いものであるかのように宣伝されると、
大女将は、
 
「ザストはそこまで深く
 自分の宿敵である仮設派を支援している」
 
と考えてしまうことは必至だった。
 
大女将がいうように、
被災地の外からやってくる支援が、
仮設派にかたよって在宅派に行き渡らないという現実も
たしかにあると私は思っていた。
 
だから私はそれまで、
私たちザストの支援が仮設派にかたよることのないよう
細心の注意を払ってきたのである。
 
大女将と同じ派閥の町役場の役人の方とも会談させていただき、
在宅派の方々も利用できる
コミュニティ・スペースを建設したりもした。
 
そういうザストの姿勢を評価してくれたので、
大女将は私たちザストを民宿「長瀞荘」に優先的に泊めてくれ、
ときには宿代を少し安くさえしてくれていたのである。
 
このことに私は大きな恩義も感じていた。
 
ところが、ここでザストがじつは
仮設派の二宮トキさんと密につながっている、
といったような印象を持たれると、
大女将にしてみれば、
自分が身を削って面倒をみてやっているザストが、
知らないあいだに、敵を利するために動いていた、
と見えてしまうのであった。
 
それでは、
「さては、裏切っていたな」
などと思われても弁解できないのである。
 
 

f:id:Vosot:20190626150801p:plain

 
 
震災後一年をすぎて、
被災地は戦々恐々としていた。
 
発災直後は、むしろ皆がお互いに助け合い、
悲しみを共有し、
 
「ともにがんばっていけば、きっと何とかなる」
 
という希望を彼方に見据えていた。
 
しかし、一年をすぎて、
ガレキの山を片づけるほどに、
そこにあらわれるのは希望ではなく、
かつての村も生活も、何もなくなった虚無であった。
 
疲れだけが際立ってきて、
人々は戦闘的になり、
疑心暗鬼になっていたのである。
 
災害心理学の本を読むと、そういう現象は
「ハネムーン期から幻滅期への移行」
などと説明されている。
 
だからといって、
いくらそんな知識だけが頭にあっても
活動のあちこちに気を配って実践しなければ、
何にもならないのであった。
 
私たちは「被災地評論家」になるために
十浜地区と東京を往復しているのではなかった。
 
私は心のうちで叫んでいた。
 
頼む。真子さん。
 せめて、そこから先は言わないでくれ。
 
 詳しいことはあとで話すから、
 二宮トキさんの名前をここで出すな。
 
 っていうか、
 そもそも何でそんなこと言い始めるの。
 まったく言う必要がなかったことじゃないか。
 
 『自分は支援してます』とアピールしたいんだったら、
 そんなよけいなこと口走るのではなく、
 もっと頻繁に現地に来て、
 もっとまじめに支援に取り組んでくださいよ。
 

 被災地のために何ができるかは、
 まずはまじめに取り組まなければ
 見えてきませんからね。

 
 ともかく支援者として、そこから先は
 言ってはいけないことですからね。
 
 あなたもメンタルヘルスの専門機関とやらの
 社長なんだから
 そのくらいわかるでしょう
 
 
だが、目の前で大女将がにらみを利かせている以上、
それを真子さんに耳打ちすることすらできない。
 
 
 
イメージ 1
 
 
 
私は一言も発しなかったが、
真子さんも私のただならぬ気配を、
たしょうは察したのかもしれない。
 
真子さんは、そこでちょっと言いよどんだ。
 
ところが、大女将のほうが一枚うわてであった。
 
「どの二宮さん?」
 
追っ手を差し向けるように、
大女将はもう一度、力強く訊いた。
 
うん、だから、そのぅ、えっとぉ、……
 二宮トキさんて人
 
消え入るような声の果てに、
とうとう真子さんは言ってしまった。
 
「ええっ?」
 
大女将の目が大きく見開かれた。
 
「二宮トキさんて、あの風ヶ谷の?」
 
「うん…」
 
と返事をしながらも、真子さんは
 
「なんかわたしまずいこといった?」
 
とでもいうような、
とまどいを含んだ目で私を盗み見た。
 
 
「おんやまあ、
 
 そいつぁ知らねがった!」
 
 
大女将はとうとう大きな声を出した。
 
そして、何も言わず、そのまま部屋を出ていった。
 
私は目の前が真っ暗になった。
 
 

f:id:Vosot:20190626150730p:plain

 
 
 
私がこのように
ザストの被災地支援をふりかえって書いていることを
 
「ぼそっと池井多はザストを追い出されたから
 放逐した家族とザストを同一視して
 母親のかわりに攻撃しているのだ」
 
と解している人々が、さぞやいることであろう。
 
じっさい、齊藤學(さいとう・さとる)は
そのように患者たちに言いふらしているらしい。
 
そのような転移解釈が可能であるからこそ、
私も、被災地支援をふくむ
患者社会における体験の記録を
わざわざこの「長男の放逐」シリーズにつづっているわけである。
 
しかし内容は、
ちゃんと読んでいただけばわかるように
けっして攻撃や中傷ではない。
 
めざすは、
ザストの被災地支援とは何であったかを
反省とともにふりかえり、
ひいては
「精神医療とは何か」
を裏側からあぶりだすよすがとすることである。
 
加えられる圧力に屈せず、
私が筆を進めようと思う理由は
そこにある。
 
 
 
 
  •               

    顔アイコン

    こんばんは。今回もドキドキハラハラさせていただきました。マコさまと大女将のやりとり、息をのんで見守るJIさん。スリリングです。援助や支援の現場はきれいごとでは済まされないとは言っても、援助する側の人はやはりある程度の資質は必要ではないかと改めて思いました。それでもマコさまがなんだか気の毒に思えてしまうのはなんでなのかな。今回は出てきてないけど、もう一人の会社の人が余計腹黒そうに思えてきて、今後の展開が待ち遠しく思います。あと、援助という意味では医療や心理療法の現場もそうなのかなと思いました。そちらの現場はどうなってるんでしょうね。 削除

    sma***** ]

    2015/11/27(金) 午後 9:39

    返信する
  •               

    sma***** さま コメントをどうもありがとうございます。

    おっしゃるとおりです。資質の問題もあるのでしょうけれど、真子さんはあれだけの数のカウンセラー、援助職、治療者をたばねる立場として来ていたので、やはりそれなりの自覚を持っていただきたかったものです。

    私は「心のケア」という領域で被災地支援に入ったので、どうしても精神医療とつなげて考えざるを得ませんでした。そうした連関も今後書いていけたら、と思っております。

    今後ともご声援のほどよろしくお願いいたします。 削除

    チームぼそっと

    2015/11/28(土) 午前 0:07

All Right Reserved (C)VOSOT 2013-2020