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治療者と患者(71)女工哀史 ~ マリナさんの人生、二つの解釈

治療者と患者(70)」からのつづき・・・
 
#齊藤學被害 #精神医療被害 #精神療法被害
 
by ぼそっと池井多
 
 
いきなりマリナさんに発言をふって
シワブの宣伝をさせた塞翁先生は、
今度はごていねいに団体名をアルファベットにばらして
原田監督の耳にねじこんだ。
 
塞翁先生エス、アイ、ダブリュー、エー、ビー、
 でシワブですけどね。(*1)
 これは近親姦、……ふつうの強姦その他じゃなくて、
 近親姦被害者が長じて精神障害
 一定のかたちの精神障害になると
 その時期、その人たちがたくさんいるので、
 だから顔を出して、
 自己表現をしてください、というのが、……
 そういうのが、私が最初、それを関与しました。
 で、いまは彼女たちの手によって、やっています。

 ただ、何か問題があって、
 ええと、技術の問題とか、お金の問題ですよね、
 まあ、そういうときには、
 私ができる範囲で応援しています。

 んで、彼女たち自身は
 いろいろなところに基金に応募したりして、
 今度、30万円、一つの団体からもらったそうなんで、
 そうだよね、マリナさん。


マリナはい。
*1.この略称の成り立ちについては
 
 
シワブは、裕福な団体なのである。
 
私たちVOSOTのように、
生活保護受給者たちが、なけなしの金を持ち寄って
ぎりぎりで声をあげている団体とはわけがちがう。
 
私は、これを聞きながら、
一つのストーリーの変化を想っていた。
 
かつて私は、
マリナさんをインタビューさせていただいたことがある(*2)
まだ性被害者のためのセイブというプロジェクトがあり、
私も城門の中へ入れてもらっていたころだ。
 
 
 
私自身が彼女から聞いた話では、
こういうことであった。……
 
マリナさんは、原家族において実母から虐待を受け、
さらに実父からの近親姦を受け、
そのため実家から遠く引き離されて、
故郷からは遠い都市の
全寮制の高校へ入れられた。
 
しかし短大へ進学したときに
切実にお金に困っていたわけでもないのに、
性風俗に勤めるようになり、
それが発端となって
修羅場のような青年期を送るようになった。
 
 
そこで彼女は性風俗嬢になっていった動機を
 
「とくにお金に困っていたわけではないのですが…」
 
「学費を稼がなくちゃ、というのはあくまでも建前で…」
 
というふうに説明した。
 
私は、ここがすごく大事なところだと思った。
そこに、マリナさんがほんとうに求めていたものへ通じる
秘密の扉が隠されているように感じられてならない。
 
私はひごろから、性風俗嬢という職業が
世間的に蔑視されるのは、おかしいと思っている。
 
ちょうど生活保護受給者が蔑視されるのがおかしいように、
それはおかしいことである、と。
 
しかし、これらの職業や身分が、
世間的に蔑視されがちであることは
事実として認めなくてはならないだろう。
 
いまでは多少、改善されてきた気配もあるが、
マリナさんが短大生であったころ、
性風俗嬢への職業蔑視はもっと強かったにちがいない。
 
にもかかわらず、
マリナさんがあえてその業界へ足を踏み入れていったからには、
そのハードルを上回る強い心的動機があったはずだ。
 
彼女には当時、いっしょに暮している恋人もいた。
お金にも困っていなかった。
なのに、なぜ性風俗へ?
 
のちに、マリナさんは
性風俗嬢時代を語ること自体を
「露悪的」と自ら評するようになっていくのだが、
この「露悪的」という言葉は、
彼女にはそぐわない語彙のように私には感じられた。
 
まったく気候風土の異なる外国から持ってきた木の苗が
場違いな大地に植樹されたように、
それはマリナさんの言葉の生態系をくずしていた。
 
そもそも「露悪的」などという漢字三文字は、
自分を優位に置いておかないと不安でしかたがない
男性が発する語彙のような気がしてならない。
 
そうこうするうちに、
フォーラムやサマーキャンプなど、
事あるごとに塞翁先生の口から語られる
マリナさんのライフ・ストーリーは、
女工哀史」のような経歴へ変わっていったのである。
 
それは、つなぎあわせると、こんなあらすじになった。……
 
 
マリナさんは実父からの近親姦を受け、
そのため実家から遠く引き離されて、
故郷からは遠い都市の
全寮制の高校へ入れられた。
 
高校では工員としての実務教育がほどこされ
卒業するやいなや、
その学校資本が経営する工場へ送られ、
最低賃金で日夜、働かされた。
 
それでは、とうてい暮らしていけなかった。
お金に困って性風俗嬢へ転落した。
 
やがて、いろいろおかしくなってきて
あるカウンセリング・ルームにたどりついた。
 
すると、そのカウンセリング・ルームは
じつはある宗教団体がやっていて、
 
「あなたのいろいろな症状は、
あなたの霊が汚れてしまったために起こっています。
 
うちのお寺で墓を購入すれば、
あなたの霊はきよめられ、
いろいろな症状はおさまっていきます」
 
と言われた。
 
そのため、その宗教団体に大金を払いこんで
墓を買ってしまった。
 
そのあとで塞翁先生の精神医療にたどりついた。
 
正義の味方、塞翁先生はその話を聞き、
たちまち息のかかった弁護士を手配して
その宗教団体から金を払い戻させた。
 
おかげでマリナさんは
ワイエフエフに受講料を払いこむことができて、
晴れてリカモリ生となった。
 
リカモリ生となることで、
いろいろな症状がおさまっていく。
 
生活に困窮しているようなので、
ザストの職員として採用し、給料を出す(*3)。……
 
*3.総会で配布された予算書によると、
人件費など全く支出されていないことになっている。
 
 
塞翁先生が語る、この話のどこまでが本当なのか。
 
あるいは、この話に出てこない重要な領域があるのではないか。
 
たとえば、性器の挿入をした父の話は、
さかんに塞翁先生によって光が当てられるが、
そういう父親のもとへマリナさんが
自分で逃げていくきっかけとなった母親の虐待については
はたしてどうなのだろうか。
 
また、墓を買うために宗教団体に金を払いこんだことについても、
当時、マリナさんは
 
「これでなんとかなるなら、安いものだと思った」
 
と語っていた。
祖先の供養もあり、その時点では納得していたのである。
 
それを、塞翁先生は弁護士をつかって払い戻させた。
このことを現在ではマリナさんはどう思っておられるのか。
 
また、それらの背景には、
そのままと改変(*4)で触れたような
20年前の記憶戦争にかかわる治療方針の変容や
塞翁先生の「事実は作れるもの」発言など
さまざまな問題がある。
 
 
 
……いろいろなことをうかがいたくて、
何度かマリナさんに
2度目のインタビューを申し込ませていただいたのだが、
インタビューは実現していない。
 
シワブぼそっとという敵味方に分かれてしまったこともあり、
ザストを追放された私と、ザストに採用されたマリナさん
という対照もあり、
いまやマリナさんは立場上、一つ一つについて
塞翁先生の許可を得なくてはならないだろう。
 
となると、2度目のインタビューは
おそらくこの先も実現しないだろう。
 
マリナさんはしっかり囲いこまれて、
いくつもの点がこのままお蔵入りになるのではないか。……
 
 
 
 
 
 
近年、貧困問題をとりあげる報道が多い。
 
それ自体は良いことだと思う。
 
貧困層の一人として、
たしかに今の日本国内における貧困や格差は、
ゆるがせにできない問題になってきていると思う。
 
しかし、ほんらい貧困というキーワードで解決すべきではない、
他の性格の問題までもが、
貧困という名の、マイナスの鋳型に流しこまれ
そこで論じられていることが多いのではないか。
 
そんな報道は、論じている者の自己満足にはなっても、
問題の解決には結びついていかない。
 
「とくにお金に困っていたわけではないのですが…
学費を稼がなくちゃ、というのはあくまでも建前で…」
 
と、性風俗嬢への傾斜を語ったマリナさんの言葉は、
ニセ貧困報道者たちに肩透かしを喰らわしそうな、
「露悪的」などという語よりもはるかに
彼女のほんとうの知性を感じさせる証言として、
私の記憶のなかで鈍い黄金色の光を放っている。
 
 
 
・・・「治療者と患者(72) 」へつづく
 

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