VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

性虐待と主体(38)国家と性虐待

性虐待と主体(37)」からのつづき・・・
by ぼそっと池井多
 
 
先日、NHK-Eテレ ETV特集で放送された「告白」を観た。

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満蒙開拓団の女たち」
という副題がついているとおり、
日本の村落から戦前に、
満州へ開拓にわたったふつうの農民たちが、
敗戦とともにどのような体験を経過したか、
ということを、
まだ生きておられる方々の証言を交えながら
描き出していくものである。
 
日本が戦争に敗けた。
日本の軍隊は、まっさきに逃げ帰った。
 
もともと中国人や満洲族の土地であった
中国東北部に植民していた日本人たちは、
とつぜん敵地に投げ出された格好になった。
 
中国人が物盗りにやってくる、
ということで、
日本人の村では、国境を越えて侵攻してきたソ連の兵隊に、
「村を守ってくれ」
とお願いに行った。
 
するとソ連兵は、
「女を差し出すならば、守ってやろう」
という。
 
そのため、日本人の村から、
十代、二十代の女性が多く
ソ連兵の性接待のために差し出された。
 
やるべき行為も知らされず、
ただ「接待せよ」と村の上の方から言われて、
娘たちが行くと、
そこにはずらっと布団が敷いてあったのだという。
 
もちろん、今でいう性風俗などで働いたことなどまったくない
まるきりの「素人」の女性たちである。
処女が多かったであろう。
 
ソ連兵たちは、ときに銃を背中に背負いながら
日本の娘たちを犯した、という。
抵抗すれば、殺される。
 
戦争は、だから
 
というようなことを、
当時の村の生き残りの男性が言っていた。
 
もちろん「戦争は性だから」という
文字通りの言葉ではなかった。
 
フロイト的にものごとを観るくせのある私が、
かってに頭でそう書き換えてしまったものだと思うが、
ともかくそういう主旨のことを言っていた。
 
男は、ときどき射精をする。
国家は、ときどき戦争をする。
 
 
 
 
 
 
 
 
よく路上レイプなど性暴力被害などに遭った女性が、
自分がどこにいるかおぼつかない、
離人症のような状態になってしまうことがある。
 
しかし、この番組で証言されていた女性たちは、
誰もがしっかりと覚悟を肝に据え、
確実に言葉に自分を乗せて、
みずからの過去を語っていたのが、
私にはたいへん印象的であった。
 
彼女たちは、皆だいたい90歳といった年齢である。
「それでも」言葉がしっかりしている、
というべきか、
「それだから」言葉がしっかりしている、
というべきか。
 
満洲からの引き揚げのさいに、
ソ連兵に犯されたなどということが知れると、
こんどは帰ってきた日本社会のなかで、
差別の対象となったことだろう。
 
そういう歳月をくぐりぬけて、
それでもなお歴史的な事実を後世に伝えるべく、
肚をすえて語っているのかもしれない。
 
あるいは、齢を経て、
世間でいう恥や偏見のバカバカしさを知悉し、
それと対峙するだけの肚がそなわってきたのかもしれない。
 
彼女たちが自らを犠牲にして、
ソ連兵たちの性欲の餌食になったことで、
日本人の村は救われた。
 
その大義名分があるという点が、
現代における路上レイプとは少しちがう。
 
その大義名分は、犠牲者となった女性たちに
はたして一抹の誇りをもたらしているであろうか。
 
 
 
 
 
 
「えっ! 日本って昔、アメリカと戦争をしてたの?」
 
などと、素っ頓狂な声でおどろく若い人も出てきたなかで、
こういう話が、どこまで通じるかわからない。
 
しかし、そういう時代になってきたからこそ、
なおさら生きている人が
語り継ぐ価値があるというものである。
 
・・・「性虐待と主体(39)」へつづく
 
 
 
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    顔アイコン

    >しっかりと覚悟を肝に据え、確実に言葉に自分を乗せて、みずからの過去を語っていた

    私の母方の祖母の妹も、満州からの引き揚げ者です。
    ぼんぼん育ちだった彼女の夫は、「コーリャン(高粱)なんてまずいものは食えるか!」と言って、医者だったのにもかかわらず真っ先に衰弱死し、3人いた子供も1人しか連れて帰れませんでした。
    残りの2人の子供たちがどうなったのか、祖母の妹は泣くばかりで、死ぬまで語らなかったそうです。

    悲惨な経験をした人に対してこんなことを言うのは酷ですが、祖母の妹には、語り部としての責務を引き受けようという気はなかったようです。

    でも私は、こんなふうに自分は被害者だというアピールばかりして、自らはつらい真実にきちんと向き合おうとしない母方の家系に受け継がれている甘えの文化を、許容できません。未来の世代に対する責任感がなさすぎるからです。 削除

    hit***** ]

     

    2017/8/15(火) 午前 10:03

     返信する
  •     

    hit*****さま コメントをどうもありがとうございます。

    私の母も、たぶん4歳ぐらいまで満洲に暮らしていました。しかし、まだ戦争が始まる前に日本に帰ってきたようです。したがって「悲惨な引き揚げ」は体験していません。

    戦後も、疎開地で裕福なお嬢さまとして暮らしたようですから、いわゆる焼け跡をさすらう飢えた戦災孤児のような生活はしていません。

    戦争という歴史的な事実が、どのように母に影響し、どのように間接的に私への虐待へつながったのか、私はまだ解明の途上にあります。

    「未来の世代に対する責任感」とおっしゃるhit*****さんの強い倫理観には頭が下がります。
    あなたはマリアテレサと話が合うかもしれません。 削除

    チームぼそっと

     

    2017/8/15(火) 午前 11:40

     返信する
  •     

    盆休みで久しぶりに読みに来ました。
    相変わらず多岐にわたる記事。
    渾身の作。

    戦争の悲惨な記憶を語る人と語れない人。
    家族には本当の事は言えないままの人。
    残忍な体験を語れず、話さず、虐待と心の中で折り合いがつけられず、家族と暮らす人。伝え聞いた事でさえ話さない、話してはならぬと口にしない人。
    終戦の日、様々な事を考えさせられる記事でした。
    ぼそっとさんのお母さんは、そういう恐ろしい体験談から守られた人かもしれませんね。 削除

    roz***** ]

     

    2017/8/15(火) 午後 11:20

     返信する
  •     

    roz*****さま コメントをどうもありがとうございます。

    おっしゃるとおりだと思います。

    私の母は、
    恐ろしい引き揚げ体験とは無縁だったことになります。

    この「満蒙開拓団」にせよ、
    別の日に放送された「731部隊」にせよ、
    ある人々が、ある物事を、
    言葉にして発するまでに
    これだけ時間がかかった、
    ということの意味を
    深く考えざるをえません。

    私が50代にして、
    子どものころの話を
    ようやく、このように誰もが見られる
    インターネットに書くことができるようにあったのも
    同じような何かが働いているのかもしれません。 削除

    チームぼそっと

     

    2017/8/16(水) 午前 11:14

     返信する
  •     

    顔アイコン

    こんばんは~

    >しかし、この番組で証言されていた女性たちは、
    誰もがしっかりと覚悟を肝に据え、
    確実に言葉に自分を乗せて、
    みずからの過去を語っていたのが、
    私にはたいへん印象的であった。

    かつて、「戦争論」などを綴っていた漫画家は逆のことを言っていましたね。
    「自分が受けた性被害は恥だと思い、口を真一文字に結ぶ、これこそ誇りに思うことだ(意訳)」
    被害を「語る」ことを許さないということであり、うすら寒さを覚えました。

    それにしても、わが国は「自分が受けた被害を他人に語ること」を良しとしませんよね…
    私の父親なんか自分が何か被害を受けたといっても、
    「それはお前がアホなことしていたからや」
    とかいうんですよね。

    自分が受けた被害を「語る」ことで、救われることもあるという認識が広がることを祈るばかりです。 削除

    [ 豚猫大好きぶーにゃん ]

     

    2017/8/16(水) 午後 8:42

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  •     

    豚猫大好きぶーにゃんさま コメントをどうもありがとうございます。

    >「自分が受けた性被害は恥だと思い、口を真一文字に結ぶ、これこそ誇りに思うことだ(意訳)」

    こんなことを言っている人がいるのですか。
    いったいどういう根拠でそういうことを言っているのか、私はまったく理解できません。


    >「それはお前がアホなことしていたからや」

    見てもいないのに、よく言いますね、お父さまは。

    被害者を黙らせた方が、自分の感情労働が少なくて済むから、お父さまはそう言っているのかもしれません。
    結局はお父さまのエゴではないでしょうか。 削除

    チームぼそっと

     

    2017/8/16(水) 午後 10:32

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