VOSOT ぼそっとプロジェクト

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外国のうつ・ひきこもり事情(32)イタリアのひきこもりたち<7>「引き出し屋」の新語

外国のうつ・ひきこもり事情(31)」または

 
by ぼそっと池井多
 
このシリーズでは、最近
GHO(世界ひきこもり機構)関係のニュースをお伝えしてきたが、
それが入ってくる前に連載していた、
シリーズ内シリーズ「イタリアのひきこもりたち」を
再開しようと思う。
 
これは昨年、ひきこもり新聞で私が連載した
「ミラノ東京ひきこもりダイヤローグ」
を改訂したものである。
 

 
ぼそっと池井多
 
「もし、ひきこもりが
ひきこもり状態を脱したいと望んでいるのなら、
他人がそれを助け出してあげようとすることはよい」
 
ということで、私たちは合意しましたね。
 
けれども問題は、
ひきこもり自身の選択によらないで、
それを「助け出してあげようとする」人々がいる、
ということなのです。
 
それが、よく日本語で「引き出し屋」などと呼ばれる、
ひきこもり支援のとんでもないタイプです。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
「引き出し屋」とは、どういう意味ですか。
 
 
ぼそっと池井多
 
日本で発行されている英字新聞などでは
Drawer」(*1)などと訳されていますが、
彼らは自分たちをひきこもりの支援団体だと名乗っています。
 
 *1:「引き出し屋」の翻訳について
 
英語で「Drawer」などと訳される「引き出し屋」は、
この対談の時点、2017年4月では
イタリア語に対応する語彙がなかった。
しかし、のちにマルコ・クレパルディと私が、
「引き出すってどういうこと」
「たとえば、洞窟のなかに何か良い物があって、
それを外へ出したい。
でも大きいから、なかなか出ない。
そういう時イタリア人はどうするの」
などと問答しているうちに estrarre という動詞に行きつき、
そこからイタリア語の「引き出し行為」estratto
「引き出し屋」 estrattori という新語が誕生した。
 
 

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ぼそっと池井多
実際には、彼らはしたたかなプロ集団です。
 
ひきこもりを抱えた両親から一万ユーロくらいの大金を受け取り、
それと引き換えに、
ひきこもりが部屋から出てくるように説得する。
 
出てこなければ、
ドアを壊してひきこもりを引っぱり出す。
 
用意してきた車に押しこんで、
更生施設と呼んでいる牢屋のような場所へ連れ去るのです。
 
そして、彼らの組織のために働く
安価な労働力に仕立て上げていく。(*2)
 
*2.労働力再生産の構造としては
搾取的精神医療機関
と同じである。
 
彼らはひきこもりを引っぱり出すのに、
いくつかの特殊な心理操作のコツを心得ています。
しかし、そのコツを使ってうまく行かない場合は、
暴力的にドアを壊して乱入し、
それを支援と呼んでいることから、
 
「引き出し屋」「暴力的支援団体」
 
などと私たちは呼んでいます。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
とんでもないことですよね、それって。
 
 
 
ぼそっと池井多
 
そうなんですよ。
 
しかし、本人たちは洗脳されてしまって、
自分たちが搾取されているのがわからないことがあります。
 
暴力的支援団体の場合、彼らの更生施設なるものは、
たいてい山の中とか、海外たとえば
オーストラリアの砂漠のど真ん中とか、
そこからひきこもりが簡単に逃げ出すことのできない
場所にあったりします。
 
更生施設が街の中にあることもありますが、
捕らえられたひきこもりは一日中、監視されているので、
逃げ出せないという点では同じです。
 
暴力的支援団体のトップは
警察とつながっていることが多いので、
たとえひきこもりが監禁先から逃げだすことに成功し、
近くの警察署に駆け込んだとしても、
また監禁先へ連れ戻されることがあります。
 
つい先日も、実際にそういう事件がありました。(*3)
 
*3.「引き出し業者被害 記者会見」
 
 
もっと恐ろしいことは、
こういう引き出し屋は社会のために
良い仕事をしていると見なされ、
政府高官によって「桜を観る会」(*4)など
華やかな表舞台のパーティーに招かれたりしているのです。
 
*4.安倍首相が毎年春に新宿御苑でおこなっている
いわば「総理大臣謁見パーティー」。
 
引き出し屋がやっていることは、
ひきこもりの人権侵害以外の何物でもないというのに。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
本当に恐ろしいことですね。
 
私は同じような業者がイタリアに出てくることを許しませんよ。
 
長期的な視点に立てば、
忍耐と理解だけがひきこもりを救う唯一の道である、
と私はこれまでも言い続けてきました。
 
 
ぼそっと池井多
 
イタリアでは、ひきこもりの増加に対して、
どのような対策や活動がおこなわれていますか。
 
 
 
マルコ・クレパルディ
 
何もおこわれていません。(2017年6月現在)(*5)
なぜならば、イタリアではひきこもりという現象について、
ほとんど誰も知っている人がいないからです。
 
だから、私はこのプロジェクトを始めたのです。
 
*5.しかしその後、2017年10月にはミラノで
初のイタリアひきこもり関係者の全国大会が開かれ、
11月にはボローニャで学校の教師たちをまじえた
ひきこもり問題の討論会がおこなわれた。
 
断片的に入ってくる情報だけをもとに
私個人が日本のひきこもり当事者として考えると、
まだイタリアのひきこもり関連の活動は支援者主体であり、
当事者たちの声は伝わってこない。
 
隣国フランスとは対照的である。
 
多くの人々は、まだ
「ひきこもり」と「インターネット依存」を混同しています。
 
だから、後は推して知るべしといったところでしょう。
 
でも、きっとイタリアでは、
ここ二、三年のうちに状況は大きく変わっていきますよ。
ひきこもりの増加という現象はあまりにも大きいので、
さすがに人々は無視できなくなってきているのです。
 
イタリアのメディアは
「ひきこもり」と「インターネット依存」を混同しているので
パソコンの電源コードを引っこ抜いてしまえば、
ひきこもりは部屋から出てくるものだ
と考えている人がイタリアには非常にたくさんいます。
 
そういうことじゃないと思うんですけど。
日本でも、そうですか。

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Image: Hikikomori Italia
 
ぼそっと池井多
 
日本ではさすがに
「ひきこもり」と「インターネット依存」を
いっしょくたにするメディアはないと思いますが、
しかしたくさんのメディアがひきこもりに関して、
先入観にもとづいたイメージを持っています。
 
たとえば、
 
「ひきこもりというのは、両親が長年苦労して建ててくれた一戸建ての二階のいちばん奥の部屋にとじこもっている20代から30代ぐらいの男性のことで、部屋の中では夜も昼もアニメを観て、インターネット観て、オンラインゲームやって、お母さんが部屋の入口まで食事を運んできている」
 
というようなイメージです。
 
安っぽいテレビドラマに描かれるひきこもりというのは、
たいていそんなものです。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
なぜ、そのような先入観にもとづいたイメージが、
ひきこもりに与えられるようになったのでしょうか。
 
 
ぼそっと池井多
 
たぶん、最初に社会の表面に引きずり出されてきたひきこもりの人が、そういう風だったんじゃないですかね。
ちょうど2000年ごろのことですか。
 
それで皆が
「ああいうのがひきこもりっていうんだ」
と思ってしまったのですよ。
 
ところが、全然そうじゃないんですよね。
 
たとえば、私自身がひきこもりを始めたのは、
両親の家を出て、
生活を自立させてからしばらく経ってからのことでした。
 
私がひきこもったのは両親の家の部屋ではなく、
大学の寮の部屋だったわけです。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
あなたがひきこもりを始めた当時は、
まだインターネットなんて無かったでしょう?
 
 
ぼそっと池井多
ありませんでした。
 
だから私は、
ひきこもりとインターネット依存が別物であることを証言する
生き証人ですね。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
ひきこもりとインターネットには高い親和性がある
というのが本当かもしれませんが、
その理由を私は、
 
「ひきこもりが外の世界と交流したい」
 
というニーズの結果として
インターネットを多用することになるからだ、
と考えているのです。
 
 
ぼそっと池井多
 
それは正しいでしょうね。 
 
あと、世代的な特徴もありますよ。
若い人たちは、ひきこもりであろうとなかろうと、
50代の私などから比べると、
インターネットがもっともっと必需品となっていますからね。
 
じっさい、私はあるひきこもり女性から
このような言葉を聞きました。
 
「私はまったくインターネットが好きではありません。
なぜならば、それぞれのウェブページに、
社会で活躍している人々の姿を見てしまうから。
 
それが、動けないでいる私を
責めているように感じるのです。」
 
 
この言葉は、
インターネット依存がひきこもりを作っているのではない、
一つの証であることでしょう。
 
今やあなたは、こうして
日本の私たちとひきこもりに関する
対話のルートを持っておられるわけですが、
フランスとかスペインとか、
もっと他の国のひきこもり関係の
ネットワークとは連絡しあったりしてますか。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
残念ながら、それがないのですよ。
 
しかし、私のホームページへの閲覧記録から、
他の国々、とくにスペインからの
アクセスが多いことはわかっています。
 
 
ぼそっと池井多
 
日本の、ある専門家がこう予想しているようです。
 
「ヨーロッパでは、南へ行くほどひきこもりは多いはずだ。なぜならば、母と子の心理的な距離が南ほど近いからだ。北ヨーロッパへ行くと、子どもの自己は早い時期に確立されるので、成人後のひきこもりも少ないはずだ」
 
 
ちゃんとした統計の結果がない現在のところ、
これは一つの仮説にすぎないわけですが、
あなたはこの仮説をどう思いますか。
 
 
マルコ・クレパルディ
 
賛成しますね。
 
スペインとイタリアは、ヨーロッパの中でも、
最もひきこもりの多い国々だと思います。
 
それは、あなたがおっしゃった理由からです。
 
しかし、何もヨーロッパで、
スペインとイタリアだけにひきこもりがいる、
などと言うつもりはありませんよ。
 
もっと他の国にもいるでしょう。
 
私の意見では、西洋では南ヨーロッパと北アメリカが、
最もひきこもりの多い地域なのではないでしょうか。
 
 
 
 
  •     

    フェデリコ = フェリーニ監督の1953年の映画「 青春群像 」( 原題 : “ l Vitelloni ” )は、当時のリミニを舞台にしていますが、主人公の青年たちは、ひきこもりです。 削除

    流(ナガレ) 全次郎 ]

     

    2018/1/1(月) 午後 3:37

     返信する
  •     

    流(ナガレ) 全次郎さま コメントをどうもありがとうございます。

    そうですか。
    私はその映画を見たことがないですが、
    今度「ひきこもりイタリア」の人たちに
    言っておきます。

    「60年以上前にも、
    イタリアにひきこもりはいたようですよ」
    と。 削除

    チームぼそっと

     

    2018/1/1(月) 午後 7:24

     返信する
  •     

    私がテレビで見た引き出し屋は、アパートでひきこもりをしている人の家に、散らかっているからと土足で上がりこんでおり、強い怒りを覚えました。
    こんな奴らに人の気持ちを語る資格など無い!と、震えがきました。両親も同意の上で、彼は施設に連れて行かれ、最後は更生したことになり、インタビューでは感謝の言葉を述べたりしていたのですが、見ていてやり切れない思いでした。 削除

    aon*_*85 ]

     

    2018/8/22(水) 午後 9:13

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