VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

やっぱり今日もひきこもる私(22)札幌母娘餓死事件の中心課題は「8050問題」ではない

昨日までにこのシリーズで申し上げたことをしつこく、
なおかつ簡単にさせていただこうと思う。
 
つまるところ、
「8050問題」の代表格として、
昨今のメディアにしげく取り上げられている
札幌母娘餓死事件(*1)でさえ、
その中核にある課題は「8050問題」ではない
というのが私の見方なのである。
 
*1.母と娘、孤立の末に 札幌のアパートに2遺体 
82歳と引きこもりの52歳 「8050問題」支援急務
北海道新聞 2018.03.05
 
札幌の事件の娘さんも、
おそらく餓死する直前であろう、12月26日に
通っていた銭湯の息子さんによって
自動販売機でスポーツドリンクを買うところを目撃されている。
息子さんは彼女をアパートの前まで送ってあげたという。
 
だが、ひと言も交わさなかった。
息子さんは、彼女がどういう体調にあるか、
あるいは、
部屋の中にすでに亡くなった母親がいるかなどは、
知ることがなかった。
知ることができなかったのである。
 
この事件の核心は、
「8050問題をかかえた世帯は、ほうっておくと餓死してしまう」
というところではないように思う。
 
むしろ、この事件から私たちが考えなければならないことは、

「餓死という状態で事後に発見されるまで、
自分たちの悲惨な情報を
外へ出さない、出せない家族をどうするか」

というところにあるのではないか。
 
 
 
 
 
 
 
(D)の事件として挙げた
佐世保老人家庭死体遺棄事件(*2)を考えてみる。
 
 
 
長崎県佐世保市の民家で亡くなった妻(79)の遺体を放置したとして、死体遺棄の疑いで同居していた夫(82)が1月に逮捕された。約半年にわたり周囲に気付かれなかった妻の死。背景の一つに夫の「孤立」があったとされる。
 
 
遺体は腐敗して一部が白骨化していた。
夫は「昨年7月に妻が亡くなり、そのままにしていた」と供述。
 
二人の息子は独立して県外で暮らしていた。
その町の自治会長は2年前から夫を訪問し、
妻に要介護認定を受けさせ、
生活の手助けをしてもらうことを勧めていた。
 
だが夫は「私が見てるんだから」と怒り、「もうよかって」とドアをピシャリと閉めた。次第に留守がちで会えないことが増えた。「無理やりでも家の中を見ておけばよかった。でもそういうわけにもいかないでしょう」(*3)
 
驚くことに、夫は元公務員であった。
どのような手続きを取れば行政支援サービスが受けられるか、
一般の住民よりもよく知っていたはずである。
にもかかわらず、いっさいそういうことを求めなかった末に
妻の遺体は白骨と化し、自身は逮捕されたのであった。
 
この事件には、「ひきこもりの子ども」は登場しない。
そのため、これを「8050問題」だという識者はいない。
しかし私は、この事件は本質的に札幌の母娘餓死事件と深く通じていると思うのである。
 
「親が死んだらどうする」ではなく、
「妻が死んだらどうする」だったわけである。
 
本人たちが「助けて」と言えなくて、
餓死に瀕しているのは、
なにも80代の親と50代のひきこもりの子から成る家庭だけではない。
 
ここに、

当事者が自分たちの悲惨な状況を、
 情報として外へ出せない。出さない

という問題がある。
 
これに対して、

「もっと踏みこんで支援しよう」
おせっかいは良いことだ」
 
という声が、すぐにあがる。
 
もちろん、それはそれで正当性を帯びる場合もある。
 
しかし、それは一歩間違えば、

「支援される者の主体の蹂躙(じゅうりん)」

につながり、

支援という名の暴力

になりかねないのだ。
 
「ひきこもり支援」という名の、
当事者の主体が蹂躙されたケースを
多く見てきているひきこもり当事者だからこそ、
私はそのことを強く感じざるをえない。
 
暴力的なアウトリーチは、
けっして支援される者を幸福にしなかった。
 
したがって、札幌母娘餓死事件の教訓を、
行政による支援介入強化としてしまうのは、
安易であるばかりか危険である。
 
 
 
つまるところ、札幌母娘餓死事件の中心的なテーマは、
「8050問題」であるよりもまず、 
 
当事者の主体の尊重」と「介入の妥当性
葛藤相克
という問題であろう。
 
その問題を考えることなくして、
やみくもにここから「8050問題」支援急務とあおることに、
私は非力ながらも警鐘を鳴らす。
 
「ひ老会」でお聞きしているかぎり、
「8050問題」を持つひきこもり当事者のほとんどが、
「親が死んだら自分は餓死してしまうかも」
という問題を持っているわけではないからである。
 
 
ほんとうの「8050問題」の内容は、もっと別なところにある。
 
 
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