VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

やっぱり今日もひきこもる私(37)不可解なテレビ局からの依頼

某インターネット番組のディレクター東野(仮名)さんから
とつぜんの連絡をいただいたのは7月7日、
ちょうど私がひきこもりの親御さんたちに向けて、
拙い講演をおこない(*1)、
ヘロヘロになって帰ってきた日であった。
 
 
 
ぼそっと池井多様 

突然のご連絡失礼いたします。
インターネット・テレビ番組「アリャマTV」(仮称)を
制作しております東野と申します。 

この度、7月16日(月)XX:xx-XX:xxの放送で
「中高年のひきこもり」(仮題)に関して特集で取り扱います。
先日ジャーナリストのイケガミッチさん(仮名)と打ち合わせをさせて頂いたのですが、そこでぼそっと池井多様のアドレスを教えて頂きました。

いくつか御記事なども読ませて頂きました。
当事者であるぼそっと池井多様の
ご意見をお聞きしたいと思っております。

これからスタジオの構成を考えていく状況でして
反映できない可能性も現状ございますが、
もし宜しければメールなどで改めてお問い合わせさせて頂ければと思います。
ご検討頂けますと幸いです。

何卒どうぞ宜しくお願いいたします。 
アリャマTV 東野
よくわからないメールであった。
いったい私の、何に対する意見を聞きたいというのか。
 
ひとくちに「中高年のひきこもり」といっても、
問題は多岐にわたる。
メールに添付されていた企画書を読んでも、
もっともらしい言葉が並べてあるだけで、
やはり内容がよくわからない。
 
たしかにイケガミッチさんからは、
「そういう人から連絡、行きました?」
と聞かれたことがあるのを思い出した。
何のことかわからなかったが、
このディレクターのことであったか。
 
私は返事を書いた。
 
アリャマTV 東野さま

はじめまして。
私はスマホというものを持っていないので、
出かけている間はメールなどのチェックができず、
お返事遅くなり失礼いたしました。

イケガミッチさんと会ったときに、
お名前だけは伺っておりました。

しかしイケガミッチさんからは、
東野さんが望んでおられることを詳しくお聞きするには至っておりません。

より具体的には、私が
どのような件に関して意見を申し上げればよろしいでしょうか。

ぼそっと池井多 
返事が来た。
 
 
ぼそっと池井多様

お世話になっております。
アリャマTV東野です。 お返事ありがとうございます。

スタジオ展開では、「5080問題」を含め、
「中高年のひきこもり」について
短い時間ではありますが、
なるべく深く掘り下げていきたいと思っています。

構成内容に関しましては来週にかけて、
イケガミッチさんにもご相談させて頂き、
それを踏まえたうえで
ぼそっと池井多様にもお聞きした内容をまとめてご連絡させて頂きます。

よろしければ、来週の木曜日、金曜日頃にはご連絡させて頂こうと思います。

どうぞ宜しくお願い致します。 
言葉はていねいだが、相変わらずよくわからない。
 
だいたい「5080問題」って、
こちらが50代の当事者であることを考えて、
わざと間違えて書いているのだろうか。
 
 
すでにこの時点で7月8日、日曜日の夜になっていた。
ということは、
「来週の木曜日、金曜日」には、
すでに7月16日の放送は終わっている計算になる。
 
インターネットで嗅ぎまわってみると、
どうやら他のひきこもり当事者の仲間たちにも
同様の依頼が来ているようであった。
 
噂によると、暴力的支援団体で有名な
ワントラップスクール(仮称)の校長が、
中高年のひきこもりを引き出す様子を
すでにそのディレクターに撮影取材させており、
それについて賛美のコメントを寄せる支援者・当事者たちを
その番組は募っているらしい、とのことであった。
 
その暴力的支援団体の校長は、
安倍首相の「桜を観る会」にも呼ばれている、
かなり体制べったりの人物である。
 
おそらく政府が提唱している
「一億総活躍」政策へ貢献している人物として
体制側には高く評価されているのだろう。
 
当然のように、多くのひきこもり当事者たちは
自分たちの主体を踏みにじることで商売をしている、
暴力的支援団体一般には強い反感を持っている。
そこで、
「暴力的支援団体を賛美する番組から出演依頼が来たら、
ボイコットしよう」
という声が広がっていた。
 
その裏には、こんなことがあるのだと思う。
 
「ひきこもりを引き出して、働かせて、
外表だけ『一億総活躍社会』の政策に合致させ、
経済活動に参加させる」
 
という、彼らが唱えるであろう論理は、
表面的なわかりやすさを持っているので、
当事者がテレビに出ることで、
それと拮抗し対峙するのはむずかしい、
というのである。
 
たしかに、そういうことはある。
私たちひきこもり当事者の論理というものは、
けっして平面的ではなく、立体的、ときに四次元的で、
複雑であり、容易に人に伝えることはできない。
 
だから、短い間に多くの人が発言する、
ワイドショーまがいの浅い番組では通用しない。
 
しかし、だからといって、
その手の番組をボイコットしていたら、
暴力的支援団体の論理だけが
彼ら商業メディアの持つ強い発信力によって、
一般社会へ浸透していくだけではないか。
 
私はむしろ番組に出演し、
暴力的支援団体の代表と正面から対峙して、
私たち当事者が何か考え、感じているかを
直接にぶつけたいと思った。
 
そこで、出演を引き受ける旨の返事を
東野ディレクターに書こうと思ったのだが、
そこで気づいたことには、
どうも妙である。
 
「ぼそっと池井多様にもお聞きした内容を
まとめてご連絡させて頂きます。」
 
とある。
 
なんだ、この日本語は。
 
私が番組を作る人でもないのに、
なぜ「お聞きした内容を」「ご連絡いただく」必要があるのか。
 
もしかしてこれは、
スタジオ生出演ではなく、
VTR出演ということではないか。
 
VTR出演というのは要注意である。
 
こちらがしゃべったことで、
相手の都合のよい部分だけを持っていかれる可能性がある。
 
以前、他局のVTR出演では、
8時間もしゃべって、番組で採用されたのは30秒ほどであり、
しかも私からすればまるきり本質からずれた箇所であった。
 
そこで、私は東野ディレクターに
このようなお返事を書いた。
 
アリャマTV 東野さま

それでは、生出演にかぎり、検討させていただきます。
VTRだけの出演は、お断りいたします。

ぼそっと池井多 
東野ディレクターから返事が来た。
 
ぼそっと池井多様

お世話になっております。

スタジオの生出演に関しましては、
イケガミッチさん、ワントラップの校長に依頼させて頂いており
ぼそっと池井多様にはご出演の依頼ではなく
スタジオの構成を作る上で意見をお聞きしたいと考えておりました。

言葉足らずで申し訳ございません。
それでも宜しければお話を伺えればと思っております。
何卒宜しくお願い致します。

アリャマTV 東野
なんだ、出演依頼ではなかったんじゃないか。
 
「スタジオの構成を作る上で意見をお聞きしたい」?
 
こちらは何を答えればいいのか。
もっと具体的に聞いてくれないとわからない。
 
「それでも宜しければお話を伺えればと思っております。」
 
ということは、これから取材に来るということか。
 
その時点で、放送日まであと四日。
 
ひきこもり当事者たちの間の噂によると、
そのディレクターはいきなりテレビカメラをもって
当事者会にあらわれ、
出演者を募っている、という。
 
そこまで出演者に飢えているのか。
 
「出演してもいい」という当事者がいるのに?
 
どうも、おかしい。
 
ひきこもり当事者というものは、
だいたい社会からひきこもっているくらいだから、
メディアなどに出たくないものである。
 
当事者会に、いきなりカメラを持ちこんで、
よろこんで撮らせてくれる当事者などいるわけないだろう。
 
メディアが当事者会で撮影や取材をおこなうときは
よくよく事前に
「取材が入る」
「カメラが入る」
という告知をおこなわなければならない。
 
そんなことは、メディアはみんなわかっているはずだ。
わかっていながら、なぜそのようなことをするのだろう?
 
私のなかに一つの仮説が思い浮かんだ。
 
もしかして、
 
「当事者たちにも取材しようとしました。
でも、誰一人、当事者はコメントしてくれなかったのです」
 
というアリバイを作るためではないだろうか。
 
このように「当事者の沈黙」という結果を引き出し
結果的に、暴力的支援団体のやり方を追認しよう
という企てではないのか。
 
こうなると、なおさら私は
発言しなければならないように思われた。
 
さいわい、東野ディレクターは私の
「意見をお聞きしたい」と言っている。
 
では、意見を申し上げよう。
 
アリャマTV 東野さま

それでは、私の拙い意見を申し上げます。

私の意見といたしましては、
親から高額な金を取って、
ひきこもりを無理やり部屋から引き出し、
容易に逃げ出せない場所にある私設監獄のようなところへ入れて、
洗脳まがいの「教育」をほどこし、
さらなるひきこもり引き出し屋を養成しているような
阿漕(あこぎ)な商売をしている私企業を
追認するような番組は断じて許しがたい、
と思います。

ぼそっと池井多 
東野ディレクターから返事は来なかった。
 
そのまま放送日を迎えた。
 
 
「それでも宜しければお話を伺えればと思っております。」
 
というのは、嘘であったということだ。
 
こちらは「宜しい」といっているのに、
「お話を伺」いにこなかった。
 
ぼそっと池井多様にもお聞きした内容をまとめてご連絡
 
もなかった。
 
いったい何だったのか。
 
結局、本番の放送では、
ひきこもり当事者は一人も出演していないばかりか、
VTRでも出演していなかった。
 
当事者から寄せられたと称するメールの一部が、
二つほど読まれただけである。
 
もちろん私の意見など、
まるきり参考にされていなかった。
 
あらかじめ
 
「もし、こういう意見が当事者から出てきたら、
それを取り上げたい」
 
という番組の側の方針があり、
それ以外の当事者からの意見は
すべてゴミ箱行きなのではないか。
 
これだけ発言する当事者がいるのに、
なぜありのままの当事者の発言は取り上げられず、
当事者でない人々が外から論じるだけの番組を作るのだろうか。
 
ひきこもりは、部屋から出られない人ばかりではない。
部屋から出て、スタジオまで行けるひきこもりはたくさんいる。
 
これからはせいぜい
ひきこもりに関する番組を作るときは、
ひきこもり当事者を呼んでほしい。
 
私たちのいないところで、私たちを論じないでほしい。
 
 
……。
……。
 
 
放送された番組の中で紹介されたVTRにおける、
ワントラップの校長によるひきこもり当事者への「説得」は、
大変ひどいものであった。
 
かつてのように、
当事者の部屋の入口を物理的に破壊して侵入する
というようなことは、
さすがにもうやっていないようだが、
統合失調症の障害認定をされている当事者が、
けんめいに自分の考えや事情を説明しようとしているのに、
親と結託している校長が
「説得」と称して、それをつぶしていくのである。
 
この「ひきこもりの息子」は、
統合失調症障害年金を月6万円も得ている。
居住空間は保証されているのだから、
それで生きていくのに十分である。
 
その生活を続けていけばよい。
 
つまり、いまさら今の居住環境から
ワントラップスクールの校長が彼を「引き出して」、
自分たちの洗脳施設へ入れる理由がない。
 
なのに、ワントラップの校長は
それを遂行しようとしている。
 
最後には当事者の手を取り「握手をする」ことで、
形だけ当事者の「合意」を取りつけた格好にしている。
 
当事者としては、たぶん釈然としないだろう。
 
見ている私としては、
むしろ74歳の母親のほうが精神的に病んでおり、
必要以上に元気で過覚醒で、要求高く、
境界性パーソナリティー障害を想わせ、
息子を精神的に疲弊させていると思われた。
 
この母親が見栄や外聞を捨てて、
(私の通う阿坐部村のような所ではなく)どこかまともな精神医療につながり、虚心に自らを息子に語ることこそが、
ほんとうは、この家族における「解決」なのだと思われる。
 
しかしワントラップスクールの校長は、
親から金をもらっているので、
親が機嫌をそこねるような、そんな真似はしない。
 
住んでいる家もかなり大きく、
「親と子が老いたまま孤立して餓死」
などという展開には、
はなはだ遠い家庭のようであった。
 
 
……。
……。
 
 
放送が終わった翌日、
東野ディレクターから、
また意味不明のメールが来た。
 
ぼそっと池井多様

ご連絡が遅くなってしまい申し訳ありません。

今回は、大人の引きこもりが抱える問題として
8050問題を取り上げたいと思い放送を考えました。

ワントラップさんを取材するにあたり
客観的な視点が必要ではないか?というイケガミッチさんの助言もあり、ご出演頂きました。

番組として今後も同テーマを扱わせて頂く際には
ぼそっと池井多様に取材をさせて頂きたく思います。

アリャマTV 東野
 
私の返信。
 
アリャマTV 東野さま

正直を申し上げて、
東野さまがおっしゃっていることは、
どうも解しかねる時が多くあります。

ワントラップスクールさんを取材するにあたり
客観的な視点が必要ではないか?というイケガミッチさんの助言もあり、ご出演頂きました。

とお書きになっておられますが、
そもそも私は出演などしておらず、
放送はもう終わっていますよね。

なにか、あまりにも進め方が雑なのではないでしょうか。

誤解しないでいただきたいのは、
私は、自分が出演できなかったために、
それを恨みに思って、
こうして東野さんに
いやがらせメールを書いているわけではないのです。

今回の一連のご依頼に関しては、
東野さんのご要望の内容が、終始一貫して
私には具体的によくわからないものでした。

番組も拝見しましたが、
VTRに流れた、ワントラップの当事者への「説得」は、
あらゆる意味でとんでもないものでありました。

ひきこもり当事者の人権が
非常に軽視されていると思いました。

依頼主である母親が、
ワントラップの校長という代弁人をつけたのなら、
51歳の当事者の彼も、
彼がうまく言葉にして抗弁できない部分を
代わって発言し交渉してくれる代弁人をつける権利を有するべきだと思いました。

今後、同じようなテーマの番組を制作されるときには、
べつに私でなくてもけっこうですから、
ぜひともひきこもり当事者の方を多く出演させ、
ぞんぶんに番組内で発言させてくださることを
一人の視聴者として、あるいは一人のひきこもりとして、
切に希望いたします。

ぼそっと池井多
 
 
 
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