VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

貧困と人づきあい(74)東京のひきこもり、沖縄を歩く<6>沖縄のひきこもり当事者タイキさんとの対話(2)

by ぼそっと池井多

ある朝、とつぜん動けなくなった

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ぼそっと池井多 高校を出てから、
どんなことをされていたのですか。
 
タイキ 牛飼いの仕事です。
 
ぼそっと池井多 畜産ですね。
私は農業とかよくわからないんだけど、
乳牛、肉牛、どちらですか。
 
タイキ その前の段階です。
牛の繁殖をやってました。
 
母牛に種付け、人工授精をして、子牛が生まれたら、
生後8か月から10ヵ月ぐらいまで育てて、
ほかの農家さんに売る、という仕事です。
 
買っていった農家さんの方で、
子牛は2年から3年をかけて育てられ、
大人の肉牛になります。
 
ぼそっと池井多 へえ。牛飼いの仕事は、
お父さんから引き継いだのですか。
 
タイキ いいえ、おじいちゃんがこの仕事を始めました。
それを見ていて、
「ぼくも牛飼いをやりたいなー」
って思いました。
 
お父さんは何でも屋です。
お母さんは介護の仕事やってました。
 
ぼそっと池井多 牛飼いの仕事で、
つらかったのはどういうことですか。
朝が早いとか?
 
タイキ いいえ、人間関係ですね。
 
ぼそっと池井多 おっと、それは意外…
 
タイキ 同業者にちょっと小言を言われたり、
父方の叔母さんにいじめられるのが、つらかったです。

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牛さんたちが痩せていく

ぼそっと池井多 その父方の叔母さんという人には、
どういうことを言われたんですか。
 
タイキ お父さんは長男、お母さんは長男の嫁です。
だから、叔母さんは何かとうちを気に入らなかったらしくて、
たとえば、うちが新しいクルマを買ったりすると、
叔母さんが、お父さんやお母さんじゃなくて、
ぼくをどこかの部屋に連れこんで、
「いつ、買ったの」
「いくらだったの」
「どこにそんなお金があったの」
とか、いろいろ尋問するんです。
 
そういうことが、ぼくが5歳の時から続いていました。
ほとんど虐待だったと思います。
 
そういうことがきっかけで、
2002年、ぼくが25歳のとき、ある日とつぜん、
ぼくは動けなくなりました。
 
その前日までは、
「よし明日も、草刈りとか牛舎の掃除をして、がんばってやろう」
と思っていたんです。
 
ところが夜眠って、起きようと思ったら、
起きられない。
無気力になっていて、動けなくなっていたんです。
 
ぼそっと池井多 なるほど。
私も23歳のとき、ある日そうなりました。
うつ病の発症ですね。
 
タイキ はい。でも、
それから半年はうつ病という認識もなく、
「自分はただの怠け者になってしまった」
とずっとふさぎこんでいました。
 
夜になるのが怖かったです。
なにも悲しくもないのに、なんでか知らんけど、泣いてしまう。
 
遠くに住んでいた両親がやってきて、
「タイキの様子がなんかおかしいな」
と思ったらしく、ぼくを心療内科へ連れていきました。
そうしたら、すぐに医者が、
「あ、うつ病です」と。
 
こうしてうつになってからは、
ぼくはもう牛に餌をやれない、草も刈れない。
 
かわいそうなことに、
牛さんたちにはひもじい思いをさせました。
牛さんたちはおなかをすかして、
どんどん痩せていったんです。
 
そういう牛さんたちを見て、
「ああ、かわいそう。かわいそう」
とは思っているんですが、
だからといって自分は何もできない。動けない。
 
そんな自分がほんとに情けない、
と涙を流していました。
 
ふつう一頭の母牛は、
一生のあいだに多くて12頭ぐらい子牛を産むんです。
でも母牛がやせちゃったら、
もう種付けとかできなくて、出産率がガタンと落ちます。
 
むりやり種付けして子牛を産ませても、
いい子牛が生まれない。
 
おばあちゃんの家に遊びに来た人が、
ぼくの牛さんたちを見て、
「お前の牛、だいぶ痩せてるな」
と文句をいいました。
 
いわれなくても、ぼくはわかっていたんです。
「牛さんたちにはかわいそうなことをしているな」
って。
 
いわれるのが、つらかった。
 
それで、すっかりやせこけてしまった牛さんたちを、
泣く泣く他の牛飼い仲間に二束三文で売りました。
 
 当時飼っていた牛さんたちには、
「ほんとにごめんなさい」
って思ってます。
 
ぼそっと池井多 タイキさんが、
飼っている牛さんたちを、
ほんとうに大切に思っている気持ちが伝わってきました。
 
 
 
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