VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

貧困と人づきあい(76)東京のひきこもり、沖縄を歩く<8>沖縄のひきこもり当事者タイキさんとの対話(4)

貧困と人づきあい(75)東京のひきこもり、沖縄を歩く<7>」からのつづき・・・ 

by ぼそっと池井多

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「ああ、命が助かってしまった」

ぼそっと池井多 それで7年経ったら、うつ病は治ったんですか。
 
タイキ そうじゃないんです。
7年後、2009年、32歳のとき、
処方されていた薬をオーバードーズしちゃったんです。
自殺未遂ですね。
 
150錠ほど薬をのんでしまってから、
何を思ったのか、最後に牛のことが気にかかったらしくて、
フラフラになって牛舎にやってきました。
そして、牛舎の前で、
泥の水たまりに半分顔をつっこんで
倒れているところを発見されたのです。
 
あとで教えられたことには、
あと数分、発見が遅かったら、命はなかったそうです。
 
ぼそっと池井多 発見されて、すぐに救急車で運ばれたんですね。
 
タイキ はい。病院へかつぎこまれ、
集中治療室で治療を受けたようです。
 
意識が戻った時に思ったことを、
ぼくは今でも鮮烈に憶えています。
 
「ああ、助かってしまった。残念」
 
という気持ちでした。
 
ぼそっと池井多 自殺未遂したとき、
ご両親の反応はどうしたか。
 
タイキ あいかわらず両親は基本的に無関心で、
自分にも親へ恨みはいろいろあるんだけど、
意識が戻ってからお父さんが言った、
この一言にぼくは救われました。
それは、
 
「お父さんがここにいるんだから、まかしとけ
 
という言葉です。
 
何がどう「まかしとけ」なのか、
詳しくわからないけど、そこが逆によかった。
 
とにかくお父さんがここにいるんだから、
大船(おおぶね)に乗ったつもりで生きていけばいいんだ、
と漠然と思えました。
 
お父さんのこの言葉には、ほんと勇気づけられました。
 
親に関する他のことにはいろいろイラっとしたけど、
お父さんのこの言葉があったから、
ぼくは生きてこられたかな、
と思います。
 

 
編集後記
 
by ぼそっと池井多
 
タイキくんの話を編集していて、
私は、むかし阿坐部村で出会った
ある女性患者さんを思い出す。
 
彼女は高校を出たころ、自殺未遂をした。
 
彼女の父が、病院に駆けつけた。
 
しかし、そのとき言った言葉がこうであった、という。
 
馬鹿野郎! 
死ぬ気になるくらいなら、何でもできるだろう
 
 
彼女もまた、
「命が助かってしまった」
といっていた。
 
そして、さいおうクリニックへ来た。
 
けれども、近親姦など塞翁先生が好む症例ではなかったため、
私と同じようにほとんど治療の対象とはならず、
都合よくこきつかわれるだけであった。
 
やがて、阿坐部村から見なくなった。
 
そのうち、彼女が新宿・歌舞伎町で
きわめて自傷的な売春行為に明け暮れていることを知った。
 
夜の盛り場で、下着もつけず、
スカートで大きく脚を開いて立っている、
というのである。
 
道を行く、さまざまな国籍の怪しげな男たちに声をかけ、
相場とは比べ物にならない値段で身をゆだねている、と。
 
全身はタトゥーだらけであった、という。
 
自殺行為である。
 
また死ぬつもりなのだろう、と私は思った。
 
塞翁療法というものが、
彼女の自己評価をどんどん下げ
彼女を絶望的な自己否定に追いこんでいった
帰結であることもさることながら、
その前に彼女の父の
 
「馬鹿野郎! 
死ぬ気になるくらいなら、何でもできるだろう」
 
という言葉が、彼女の人生を決定づけているように思えた。
 
私の父も、よく私に言ったものだ。
 
馬鹿野郎!
死ぬ気になって、やってみろ
 
「死ぬ気になって」何をやるか、というと、
とくに父自身が「なぜやらなくてはならないか」が説明できない、
母が私に強要する中学受験勉強のようなことを、
「やってみろ」というのである。
 
そんなことに「死ぬ気に」ならなくてはいけないのか、
といま思う。
 
しかし、そのころは私の側に言い返す言葉が
用意されていなかった。
 
今ならば、
このように父に返すべきだったと思っている。
 
「じゃあ、訊くけど。
 
お父さま自身は、
死ぬ気になって何かをやったことがあるのか。
 
そんなに妻を恐れているなら、
死ぬ気になって妻と相対してみろ。
 
そんなこともできないのに、
ぼくにそんなことを言うな!」
 
 
……。
……。
 
 
沖縄の浜辺で録った音声を起こしていて、
タイキくんの言葉を聞き直しながら、
これらのいろいろな回想や想像が、
一気に私の頭のなかに溢れかえってきた。
 
 
ともかく、タイキくん、よかったね。
なんだかわからないけど、お父さんが、
 
まかしとけ!
 
と言ってくれて。
 
・・・「貧困と人づきあい(77)」へつづく
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