VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

いきなり年頃の娘の父になった私(64)娘の近所に住んでいた青年<9>物語の力と精神療法

イタリアの「恥」と「母」」からのつづき・・・

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物語の精神療法的有効性をもとめて

ぼそっと池井多 フランさんは2019年3月まで、
筑波大学の博士課程に在籍していらっしゃる最中
というわけですね。
 
そして、2019年4月から、
初の外国人精神科医として、
大きな病院で臨床を始められる、と。
 
いま(2018年11月現在)
私たち日本のひきこもり当事者に
アンケート調査をしていらっしゃいますが、
これについて少し説明していただけますか。
 
フラン  これは、
 
ひきこもり当事者が物語性をどう考えているか
 
を調査するアンケートです。
 
私は、物語の精神療法的な有効性について研究しています。
アメリカで映画療法というアプローチがありまして、
それにヒントを得て、
私はアニメを使った映画療法を開発したいのです。
 
このアイデアが浮かんだのは、
私が子どものころ、
シチリアで孤立と孤独を感じていたけれど、
日本のアニメ作品を見て、
それらの物語に支えられ、救われていたからです。
 
そういうことが他の人にもどれだけあるのかな、
と思っていた。
 
アニメと対話を使った療法の有効性を検討するには、
様々なステップがあるので、
いまは日本人のひきこもりと物語作品の関係を知るため、
ひきこもり当事者たちの声を直接聞いて、
ひきこもりの皆さんにアンケート調査をおこなっています。
 
日本人の綴っている物語が、
けっこう普遍的に人を癒す作用を持っているのではないか。
そして、それは
日本人自身も気づいていないのではないか。
そんな仮説を持っています。
 
物語に描かれる登場人物によって、
自我理想を与えられて、
それがたんに物語の中だけの虚構の存在に終わるのでなく、
心の糧として、実際の自分の人生にも落としこまれる、
ということができるなら、
人は物語を見る価値があるのではないか、
と考えているのです。

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なぜ人は物語を読むのか

ぼそっと池井多  物語の力というものについては、
昔からさまざまな形で論じられてきました。
古今東西、普遍的に、
なぜそもそも人は物語を読みたいのか、
ということにも関係していることでしょう。
 
私自身は1980年代から断続的にひきこもっていますが、
非オタク系ひきこもりであるものですから、
日本のマンガやアニメはあまり知らないのです。
 
しかし、物語への没入といった体験はありました。
物語に支えられていた時期もあります。
 
日本の作品ではないものが多くて、
カズオ・イシグロ「The Remains Of the Day」
などには大いに支えられたと思います。

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ひきこもりが極まったころの私を支えた物語の一つ
カズオ・イシグロ「The Remains of the Day」
 
 
だから、精神療法的有効性を持つのは、
日本の物語に限らないと思いますが、
物語を生きていく糧にする
という場合は確かにあるでしょうね。
 
フラン はい、確かに
日本の物語に限られた話ではないと思います。
 
英語で言うとfictional narratives(虚構の語り)と呼ぶもので、
どの作品でもどの形態でも
ストーリーと架空のキャラクターがあれば物語性を持っていて、
潜在的な癒しの力があると私は考えます。
 
ただし物語が展開される状況の設定の多様性と、
描写の千差万別の可能性で、
日本のアニメーションが特にポテンシャルがあるのではないか、
と思っています。
 
物語のなかで現実の自分ができないことを疑似体験する、
ということはよくあるでしょう。
 
それだけでなく、
いま現実にできないことでも、物語を読めば、
そういう願望を持ってモチベーションを保ち、
自分の人生のために努力できる、
ということもあると思います。
 
英語では 
persuasion through fiction (物語を通した説得)
と言います。
そのことに関する心理学の研究もあります。
 
現実の自分のなかに動機や勇気づけがなくても、
物語のなかにそれを見いだすことができれば、
自分を変えるきっかけになるかもしれません。
 
このように物語には
多くの療法的な力が期待できるので、
将来的にぼくの臨床で使っていきたいと考えています。
 
患者さんに物語を見させて、その後対話をします。
 
皆が現在おこなっているのは、
物語を快楽の品として消費することです。
それはそれで良いのですが、
もっと治療のツールにも使っていくのであれば、
ただ鑑賞するだけではなく、
メンタルヘルスの専門家と一緒に鑑賞し、
内容を建設的に掘り下げる必要があります。
 
鑑賞したことを一緒にディスカッションすると、
キャラクターを通じて
自分のことについていろいろなことを学べます。
それでうつなどの症状がよくなれば、
ぼくの方法が臨床的に効果があったと認められることでしょう。
 

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Photo : フラン

感動が忘れ去られる前に

ぼそっと池井多 今回のアンケート調査は、
フランさんの壮大な計画の、
どのあたりに位置しているものですか。
 
フラン 第一段階として、私は精神科のデイケア
ひきこもり当事者をインタビュー調査しました。
 
ひきこもり生活のなかで、物語を見て、
何か自分の生活に変化がもたらされたかどうか。
感情的にも、精神的にも変わったことがあったかどうか。
そういうことを聞き取りました。
 
今はそれに続く第二段階で、
臨床医学として認めてもらうために、
いまは治療効果に関するエビデンスを集めています。
 
物語から得るモティベーションは、
たいていは一時的なものです。
 
作品を観た直後はものすごく感動していても、
得た感動を自分のなかに落とし込むというか、
噛み砕いて整理しないと、
たちまち感動は忘れ去られ、消えていきます。
 
だけど、同じ作品を観た者同士で
対話をしたり議論をしたりすると、
作品で得たものが噛み砕かれ
自分のなかに消化されていきます。
 
このようにすると、
物語から得られた力がより長く有効性を保たされ、
自分を変える力にすることができるかもしれません。
 
ぼそっと池井多 2019年4月から研修医として臨床もしながら、
大学院生として研究も続けるのですか。
 
フラン 研修の2年間は、
研修に集中しなければならないでしょう。
 
しかし、その間も、
これまで調査研究してきたものを
自分なりに整理していくつもりです。
研修のあいだに論文を書いて出版したいです。
それを終えたら、また大学に戻って、
博士号を目指そうと思っています。
 
将来的には、日本のアニメを使った療法を開発して、
ひきこもりや、
他の精神症状を持っている人の手助けをしたいと考えています。
 
道が険しいかもしれませんが、頑張りたいと思います!
 
 
 
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