VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

治療者と患者(336)リカモリング・アホバイザー制度と患者の無償労働

#齊藤學被害 #精神医療被害 #精神療法被害

 

by ぼそっと池井多

 

本ブログの根幹にあたる、精神医療機関「阿坐部村」の実態を描く「治療者と患者」シリーズを、最近は手がけることができなかった。しかし、「ピアサポート」という語が耳に入ってきたことをきっかけに、あらためてその物語を書き進める気になった。

どこで耳に入ってきたかというと、先日起こった京都ALS嘱託殺人事件をめぐる報道の中においてである。

 

 

私にとって、このピアサポートという概念のまわりには、まるで浅瀬の海に長年繋留けいりゅうされている舟の底に、フジツボやら海藻やら、わけのわからない有象無象がどっさり付着しているように、阿坐部村で起こったことやひきこもり大陸で進行していることなど、有象無象の現象がどっさり付着しているのである。

それらをていねいに剥がしていかないと、私はこのピアサポートという概念を虚心に考えることができない。

 

 

 

 

私にとって「ピアサポート」という語にまとわりついているものの第一は、一般社会では軽蔑される痴漢という行動障害を持つがゆえに、かえって阿坐部村で権力を持つに至った押上という男の存在である。

なぜ、そうであるかに関しては長い説明が必要だ。

 

2013年ごろまで、阿坐部村という精神患者の共同体の中心的な組織であるザストというNPO法人で、私は実質上の事務局長を務めていた。

表向きは「渉外部長」という肩書きであった。事務局長には、まったく実務を行わないが、一種の「お飾り」として古参の患者でクリニックの職員でもある岩木老人(*1)が就いていたからである。

したがって私は「事務局長」だったといってよい。

 

 

いっぽう押上は、そのころはまだザストの会員にもなっていない阿坐部村の患者であった。

私はザストのなかに、パソコン好きな押上が活躍できるように「PCサロン」などというコーナーを作り、押上はそのおかげでいろいろザストのお世話にはなっているくせに、たかだか年6000円の会費を払うのも頑として渋っていた。すなわち、

「自分はザストの人間ではない」

という意思表明であった。

 

押上の中では、

「あくまでも自分はパソコンの専門家であり、ザストの理念なんぞはどうでもよいが、自分のそういった過去の職業人として技量が必要とされるのなら、仕方がない、無料で奉仕してやるか」

といったスタンスがあったのにちがいない。

ちょうど私が、精神科の患者となって阿坐部村にたどりつく1999年より前に就いていた「国際ジャーナリスト」なるプロフェッションに、まだ未練たらしく一抹の誇りのようなものを持っていたのと同じだろうと想像する。

押上もまた、痴漢として捕まってからは、しばらく塀の中に暮らすことになり、その結果、娑婆に出てきても、精神科の患者村で生きざるをえないのであった。そこに、きっと押上なりに忸怩(じくじ)たるものがあったのだろう。

たどった軌跡はちがうが、私と同じく「転落」のすえに阿坐部村にいたのであった。

まるで社会の底辺のようにみじめに見える患者村で生きていかざるを得ない自分をつらつらと眺め、

「ほんとうは自分は、こんな所でくすぶっている人材じゃないんだぞ」

と、かつての自分のプロフェッションへの誇りを再燃させていったすえ、たかだか6000円のザストの年会費も払わなかったのだと思われる。

 

こうして押上は、私が統括するザストのお世話になり、しかもけっしてザストの内部の人間にならないようにしていたにもかかわらず、私がおこなうザストの仕事に関しては、事あるごとにあの手この手で邪魔してくれていた。

 

そんな押上から見れば、おそらく事務局長格の椅子に座っていた私はムカつく存在であった。

そして押上は、私がそこに座っていた理由を、次の二つだと考えていたのだろう。

すなわち、一つめは私が実務処理において有能であったから。二つめは阿坐部村のトップに君臨する精神科医塞翁勉(さいおう・つとむ)に可愛がられているから、である。

それが彼の嫉妬を絞り出したのだ。

 

しかし、彼の想像は両方とも間違っていた。

 

たしかに私は、本来なら何人ものスタッフが分業するザスト事務局の仕事を一人でこなしていたので、見かけ上は「有能」に見えていたかもしれない。

ところがそれは、ザストの仕事を複数人数で分業すればするほど仕事が増えていくという現実に由来している、苦肉の策の結果だったのである。

 

ザストの仕事は、集団療法であるところの精神医療の「作業療法」の延長と位置づけられ、私たち患者は主治医 塞翁勉が演説しまくるさいおうミーティング(*2)において、

「ザストの仕事は無償ボランティアでおこなうべき」

と洗脳され続けていた。

 

*2. さいおうミーティング

精神科医 塞翁勉が営む精神科、さいおうクリニックのDNC(デイナイトケア)において、中心的なプログラム。いわば阿坐部村の「中央広場」。一日4時間以上、一方的に治療者の話を聞かされる洗脳装置でもある。詳しくはいかの記事を参考のこと。

治療者と患者(199)さいおうミーティングとは何か

vosot.hatenablog.com

 

一般の職場で作業するならば、仕事をしたぶんだけ給与や時給といった形で報酬が払われる。ところがザストでは、「ボランティア」「作業療法」などなど、いくつかの耳障りのよい言葉に溶かされて、無償労働であることが求められるので、報酬は払われない。

 

そのため、ザスト事務局では、私をのぞいてまじめに作業する者はいなかった。

そこにたむろしている患者たちとは、作業はせず、暇をもてあまし、昼間っからひたすらお茶を飲み、お菓子を食べているおばさん連中であった。彼女たちは「作業をしている」という格好だけ演じ続けることに長けていた。

ここで「作業をしている」という格好を見せることは、阿坐部村の発展に貢献しているポーズを取ることであり、治療転移している「塞翁先生に尽くしている」ということになるのである。

 

ところが私は、作業もせずに、このようなおばさん連中と塞翁医師や他の患者の噂話ばかりしていても、何ら得られるものがなく、それどころかまじめに作業をしている私をいじめるのであった。だから私にとっては、ザスト事務局の中に居ること自体が拷問であった。

そのときの様子は、以下の記事に詳しい。

 

 

そんな一方では、阿坐部村の頂点に君臨している精神科医、塞翁勉(さいおう・つとむ)は、口癖のようにいつもこう言っていた。

 

私はこれだけ多くの患者を診てきたんだ。

 だから私には人間が見えている

 

それを聞くたびに、私は噴き出しそうになるのを必死でこらえていた。

なぜならば、塞翁医師ほど人間が見えていない精神科医もめずらしかったからである。

 

塞翁勉は、自らが統治する王国の末端にあたるザスト事務局の内部が、あのようであることをまったく知らなかった。

まあ、その時間、ザスト事務局とは数軒離れた診察室にいるのだから、知らないのは良しとしよう。しかし、精神科医なのだから、少しは患者たちの動向に想像力を働かせてほしいものだった。その想像すらできていない様子だったのである。

 

塞翁は、私たち阿坐部村の患者が、彼の望むように、どんな無償労働でも喜んで、彼への治療転移だけを拠り所として日々いそしんでいると考えていた。

 

この誤認が、やがて私を追放し、阿坐部村を沈没に導く発端となるリカバリング・アドバイザー制度の創設に関わっていると思われる。

すなわち、塞翁勉はこう考えたのだろう。

 

「しめしめ。患者どもは私にどっぷりと治療転移ししていて、私とのつながりを維持するためなら、あるいは私に気に入られるためなら、何でも差し出すぞ。

労働力でも時間でも無償で差し出す。

よし、それじゃあ次は金を差し出させてやろうか。

もし差し出さなければ、『治療関係を断ち切るぞ(*3)』と脅かせばよい。

やつらが払っている保険診療の報酬だけでは、私はとうてい経済的に満足しない。なんとか、保険診療の枠外で、やつらが金を出すシステムを作ってやろう。」

 

 

リカモリング・アホバイザー制度なるものが作られた動機の一つは、このようなものであったのにちがいない。

塞翁医師にしてみれば、保険適用の医療費を取ってやっているDNC(デイナイトケア)のさいおうミーティングと同じことを、今度は保険が適用されない「講座」で、「受講費」という名目で患者から金をとってやればよいだけなのである。

まるで「濡れ手であわ」のような丸儲けではないか。

 

……。

……。

 

2013年にリカモリング・アホバイザー制度が始まった当初は、患者たちも申し込みに殺到し、塞翁勉の目論見はみごとに当たったかに見えた。

しかし、患者の中には賢い者もいて、やがて疑念の声を挙げ始めることになる。…… 

 

このリカバリング・アドバイザー制度がどのようにピアサポートと対立関係になるか、という点を含めて、続きはまた後日に譲ろうと思う。

 

 

 関連記事

vosot.hatenablog.com

vosot.hatenablog.com

 

この物語はフィクションであり、登場する人物・団体などはすべて架空のものであり、似ている人物・団体があったとしても偶然の一致にすぎません。

All Right Reserved (C)VOSOT 2013-2020