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しゃべれない男たちの叫び(27)なぜ男性は毒母からの被害を語れないか

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by ぼそっと池井多

 

「毒母」という語は、だいぶ一般に広まってきたが、その被害に遭っているのは、もっぱら娘ということになっている。

 

そんな偏見と誤謬を裏打ちするように、

「男性には毒母はいない」

などという俗説が、専門家の口から堂々と吐かれている。

 

なぜ、このようなことがまかり通るかというと、背景に「男性は毒母のことが語りにくい」という社会の空気があるからだ。

 

「私は毒母に虐待された男です」

などとは、とても言えない。

もし言えば、

「男のくせにいったい何を言ってるんだ」

などと一笑に付されて嘲弄されるだけなのだ。

 

日本の歌謡曲など聴いてみれば、日本社会では母親や息子というものがそれぞれどういう存在か、あるいはどうあるべきか、について堅固な類型を示されているのがわかる。

枚挙にいとまがないが、思いついたところで一つ挙げてみよう。

さだまさし(クレープ)の「無縁坂」である。

 

後だけは見ちゃだめと

笑ってた白い手は

とてもやわらかだった

 

運がいいとか 悪いとか 

人はときどき口にするけど

そういうことって本当にあると

あなたを見てて そう思う

 

これが、息子から見た母親の類型的なイメージなのである。

そこから立ちのぼる弱々しくやさしい母親の姿からは、毒母のドの字も感じられない。

 

また、私がかつて「スパゲッティの惨劇(39)」で、やはり本記事と連続しているテーマ

「なぜ母親から息子への虐待は取り上げられないか」

を取り上げたところ、本ブログの読者だった迷えるオッサンさんからこのようなコメントをいただいたのだった。

 

「被虐待者が男性である場合」
読者としては面白くない。
今後の展開へのドキドキする期待感がほとんど無いんですよね。

 

へえ、そうですか。

べつに期待感など感じてもらわなくてもよい。

私は読者をドキドキさせるエンターテインメントでこのような記事を書いているのではないのだ。

 

これらは氷山の一角であるが、日本社会がこのような偏見に凝り固まっていて、男は強く、女は弱いことになっていたから、弱いはずの女=母親に、強いはずの男=息子が虐待されても、悲鳴を上げることさえできないのであった。

 

こうして虐待の被害者が、被害を訴えると、馬鹿にされ、嘲弄されて、かえって傷つけられる結果が待っていた。

 

いや、実際にそうした結果までたどりつかなくても、そういう結果になることは、この社会に生活してきた者ならば、誰しもがたやすく予想できた。

日本社会だけではない。日本人が理想化しやすい欧米においても、この点においては大差はない。

 

だから、男は毒母からの被害を語れなかった。

げんに今も語っていない。

しかし、誰も男が語らないものだから、本当に男に毒母はいないことになってしまい、今日へ至っているのである。

 

こういう問題の専門家であるはずの精神科医心理療法家までもが、

「男性の毒母問題は存在しない」

などという通説を堂々と唱え、誤ったイメージを再生産している。

 

また、ごく稀に男性が勇気を出して毒母からの被害を申し立てても、それを聞いている論者たちは、その叫びを受けて、

「それだけ母親は追い詰められているんだ。かわいそうな女性。」

などという話へ持っていってしまう。

 

そして、加害者である母親の救済ばかりが論じられ、被害者である男性の子どもは救済されないままなのである。

 

ほんらい虐待が発覚したら、まずは被害者を救済してから、加害者が再犯したり再生産されないようにように考えるべきなのに、被害者が男性で、加害者が女性であると、この手続きが踏まれないのだ。

 

たとえば近親姦など家庭内性的虐待のように、女性が被害者である場合に比べると、なんたる違いであることか。

 

女性たちは #MeToo などといって、さかんに男性からの被害を訴える。

その声は聞かれ、社会に通っていく。

しかし、男性たちの声は聞かれず、社会に通っていかないどころか、発せられることすらないのである。

 

さらに極めつけは、こういう発言をおこなえば、すぐにそれをミソジニー女性嫌悪)やセクシズム(性別主義)を主旨としているものと取り違える輩が出てくる、という状況である。

これほど男女平等を訴える発言もないであろうに。

 

 

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