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外国のうつ・ひきこもり事情(154)韓国のひきこもりと交流が開通する

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韓国の路地裏 Photo by PhotoAC

 

by ぼそっと池井多

 

「近くて遠い国」……。

その言葉がぴったりあてはまっていたのが韓国であった。

 

4年前にGHO(世界ひきこもり機構)を設立したときから、韓国にひきこもりが多いことはわかっていた。

韓国で作られるドラマや映画には、日常の風景としてひきこもりが多く登場し、その頻度も様相も日本とそっくりだったからだ。

もともと日本と社会の構造がよく似ている韓国であるから、日本並みにひきこもりが多くいたとしても何の不思議もなかった。

 

ところが、私は長らくただ一人のひきこもりの実在さえ、韓国には確認できなかったのである。

つまり、実際に「この人が韓国のひきこもりです」という人とはインターネット上ですら会うこともなかった。

 

北朝鮮のひきこもりに関しては、ひきポスでも拙著『世界のひきこもり』でも取り上げたように、韓国のインターネット番組によって、語っている本人を見ることができた。

www.hikipos.info

社会的な距離ということでいえば、北朝鮮より韓国の方が断然近いことは明らかである。にもかかわらず、韓国のひきこもりの実在は触れられなかったのである。

 

 

3年前に韓国のメディアが私を取材しに来たことがある。

そこで私は彼らに聞いた。

「韓国にもひきこもりがいるでしょう」

「ええ、いますよ。多いです」

と彼らは答える。

しかし、

「誰か実際に会ったことがありますか」

と聞くと、

「いいえ。一人も会ったことはありません」

と答えるのであった。

 

GHOを設立して1年経ち、2年経って、世界中のさまざまな国からひきこもり当事者が入ってきても、韓国からの入会者は一人もいなかった。

アラブ諸国から、アフリカから、中南米の貧しい国から、ロシア語圏から、多くのひきこもりが名乗りをあげ、GHOにやってきた。

それでも、お隣の国、韓国は私にとって沈黙をつづけていたのである。

 

 

 

 

要因の一つは文字だと思う。

私はハングルがまったく読めない。

 

アルファベットを字母として使う言語圏ならば、たとえばポルトガル語を話すブラジルのように、たとえその言語が私にとってまったく理解できないものであっても、インターネット上の文章を眺めたときに、

「ははあん、これはひきこもりについて述べているな」

などとわかる。

「hikikomori」という綴りは変わらないからである。

そこに目が留まる。

 

 

しかし、日本のひらがなに一番近いはずのハングルで

히키코모리

と書いてあっても、私にはそれがひきこもりだとはわからない。

目は通過してしまうのである。

 

 

ところが最近になって、ようやく韓国のひきこもりとつながることができた。

まず最初に韓国の支援者の方がGHOにつながった。

ついで、韓国のひきこもりグループのリーダーを名乗る方が入ってきた。

たぶん韓国において当事者会でも主宰しておられるのだろう。

名前は、ハングルなので読めない。

 

私たちのひきこもりグループでは、何かスローガンを作ろうとしています。

どういう方向性の言葉がよいと思いますか。

 

とGHOで助言を求めてきた。

 

 

私は、少なからず警戒した。

「スローガン」というと、どうも「一億総活躍」みたいな政治的なプロパガンダを、私は想像してしまう。

それは何か、ひきこもりの当事者活動には似つかわしくないように思う。

そこで、このようにお返事した。

 

ひきこもりは政治的な運動ではないので、「スローガン」をつくるというのは、あまりふさわしくないように思います。

 

これは私見にすぎない。

日本のひきこもり当事者の中には、ひきこもりを「体制」に反逆するある種の政治運動のように捉えて、活発に活動している方もいる。

ただ、私はそうではない、というだけだ。

そんな元気がないからひきこもりなのである。

 

ところが、これはどうやら杞憂だったようだ。

返事が来た。

 

アドバイスをどうもありがとうございます。

でも、韓国は日本とちがって、まだ一般の人々がひきこもりというものを知らなすぎるのです。

だから、何か一言でひきこもりとは何かが理解してもらえるような便利な言葉を掲げようと思案しているという次第です。

 

なあんだ。

「スローガン」といっても、政治的なそれではないわけだな。

ようするに、ひきこもりをあらわすキャッチコピーのようなものを探しておられるのだろう。

そこで私はこう答えた。

 

そういうことでしたか。

 

それでしたら、ひきこもりをよく知らない人に、私はこんなふうに言うことがあります。

 

ひきこもりは、その人にとって

この世界で生き延びるための必死な手段です。

 

このようなことを申すのは、「ひきこもりは怠け者」などという偏見を退けるためです。

 

 「必死な手段」とは、日本語に訳してしまうと言葉としてこなれていないが、ようするに英語で

 

Hikikomori is one's desperate way

to survive in this world.

 

と書いたのだった。

 

お、いいですね。

それをいただきます!

 

こうして、ようやく韓国のひきこもりの当事者たちと生の言葉のやりとりが開通したのである。

 

 

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