VOSOT ぼそっとプロジェクト

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やっぱり今日もひきこもる私(364)視線から感染する病気?~「目で殺す」

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Original photo by Sbringser

by ぼそっと池井多

 

本日、ひきポスから

「1000文字小説」

を一篇、発表させていただいた。

www.hikipos.info

 

この「1000文字小説」というシリーズは、もともとひきポスのライターである喜久井ヤシンさんが、さまざまなイラストレーターとコラボしながら連載しているものであり、いわゆるショート・ショートと呼ばれる短編小説である。

1000字から、多くてもせいぜい1300字ぐらいで、エスプリの効いた一つの寓話を語るというのは、なかなかむずかしい文芸である。

……そう、芸なのだ。

昭和の時代には、このジャンルに星新一といった巨匠がいた。

 

喜久井ヤシンさんに、他のライターでもこのシリーズで書いてもよいかと尋ねてみたところ、快い返事をいただいたので、菲才ながら私も一作、ためしに書いてみたという次第である。

もちろん、拙いものしかできない。

寓話であるから、SF(サイエンス・フィクション)のような正確さはなく、突っこみどころ満載である。

 

しかし、「視線でうつる病気」というのは、私がまったく一からこしらえた虚構ではない。

ちゃんとヒントになる先例があった。

なんと過去において、

「この感染症は視線で伝染する」

と専門家によってまともに論じられた病気があったのである。

 

 

 

 

ペストであった。

これは、1894年にペスト菌が発見されるまでは、原因が特定されない病気だった。

さらに、パスツール1861年に細菌を発見するまでは、すべての伝染病の原因は謎のままで、人類はあらゆる可能性を疑っていたのである。

そして何千万人もの人がペストで死んでいった中世、1349年にこのような解説書が書かれていた。

 

この疫病は、空気によって、つまり病人と話をしたり、その呼気を吸ったりすることで感染する、と言われている。

しかし、この疫病の最も恐ろしい所、すなわち、いわば「即死」をもたらすのは、患者の目から発した一種の霊気が、患者のそばにいて、その患者と目を合わせた健康者の目を撃った場合である。


エウクレイデスの「視線学」に関する著作を読んだことのある者ならば誰でも、疫病がこのようにして起ることに疑いを抱く者はあるまい。

これはごく自然に起こるのであって、けっして何か神秘的な力によるのではない。

 

太字部分は引用者である私による。

これは、今のフランス南部にあたる、当時の司教領モンペリエに住んでいた医師によるペストの論考である。医師の名前はわかっていない。

 

こうして、

「ペストは視線でうつる」

とされたため、病人を介護する者や見舞いに来た者は、けっして病人の目を見ないように気をつけていたらしい。

見舞客はまだしも、看護師は大変であった。

横向きで病人に接し、患部を見ないでさまざまな処置をしたという。

 

文中に出てくるエウクレイデスとは、古代エジプトの数学者である。

彼によってつくられた「光学」という名の学問は、「視線の学問」「眼差しの学」であった。

 

「目で殺す」

といえば、田原俊彦にそういう歌があったらしい。

 

www.youtube.com

 

もっと古くは江戸時代に、

 

大阪本町 糸屋の娘
姉は二十一 妹は二十歳はたち
娘二人は目で殺す

 

などと言われ、美女が流し目を投げて男をたちまち惚けさせてしまうことを「目で殺す」と言っていた。

そういうことは今日でも起こる。

私などはしょっちゅう殺されていることになる。

 

しかし、そのように殺されて喜ぶ事例だけでなく、ペストのように誰もが感染したくない病気が視線でうつるということが、かつては大まじめに論じられていたわけである。

 

今日はエイプリル・フールだから、私が根も葉もないことを書いて読者の皆さんをかついでいると思われるといけないので、出典を挙げておく。


参考文献:村上陽一郎『ペスト大流行』岩波新書 1983年  p.112

 

 

  

 

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