VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

父から逃げられない私(41)強迫と死の弁証法

父から逃げられない私(40)」からのつづき・・・

 
J.I. ぼくの場合は強迫という厄介な症状を治そうと
 原因をたどりたどっていくと 
 どうしてもという概念に行きあたらないわけには
 いかなかったんだよね。

ナガレ お母さんの死?

J.I. 母の死であり、自分の死ということになる。

 「お母さんが死んじゃったら、
 もうご飯つくってくれる人がいない。
 だから自分は生きられない」

 という思い込みがあったから。

 そして、この思い込み自体、
 母によって刷り込まれたものだった。

 しかし、そこを
 「お母さんがいなくても、自分でご飯をつくればいいんだ
 というふうに断ち切って考えられるようになったために、
 母の死は自分の死ではなくなったというわけです。

 となると、そんなに母の死も恐れることはないだろう、と。

 すると、
 何かにつけてすぐ
 「死んでやるからね
 と、迫ってくる母は、
 もはや死んでも恐ろしくないばかりか、
 むしろそういう存在はかえって死んでくれた方が
 自分は解放されるのだ。

 「母の死」をちらつかせる母の死を望んでいる自分に
 しだいに気づいていったのです。

 そのような思考の逆転が起こったことが、
 私の場合、長年わずらった
 強迫が取れていった契機であったわけです。

 強迫が治るには、どこかで
 それに類する「コペルニクス的転回」というか、
 思考の逆転が必要になるのではないでしょうか。

 強迫というのは、やはりその人の人生の根っこの
 肝心かなめの喉元をしめるような
 そういう要衝をおさえているものだと思います。

 強迫は、究極の拘束です。

 だから、強迫症状の源をたどっていくと
 どこかで「死」という概念が出てくるんじゃないかと
 思うのですよ。

 フロイトをかじった人は、
 強迫の源はセックスというかもしれないけど、
 それはエロス(生の本能)という意味でつながっているだけで、
 最終的には「性」は「生」なのです。
 だから、それが失われる恐れは「死」となる。

 ナガレさんの場合、強迫と死はつながりますか。

ナガレ 「死」ねえ……。

 子どものころ、死を意識したことがあっただろうか。

J.I. いや、そういうことではなくて。

 たとえば、いま、仕事でゴミを分別しているときに
 分別の作業をいいかげんにしたら、
 どこかであなたの死につながるようなことはありませんか、
 ということです。

 あるいは、「語義の迷路」にはまったとき
 「言葉の意味を、1つ2つ調べなくたっていいや」
 という気持ちになったりしたら、
 その裏側に死につながる経路があったりしませんか、
 ということです。

ナガレ さあ・・・
 それは意識してないなあ。

 「完璧でなければならない」
 というのは、やはり
 父親の命令に従わなくてはならない
 父親の期待に応えなくてはならない
 というところから来ているように思うけど、どうなんだろう。

J.I. 「完璧でなければならない」 
 ということ自体、父の教えであり、
 父に勝たなくてはならないからでもある、ということ?

ナガレ 「勝つ」・・・。

 「勝ち負け」ではないな。

 やっぱり「命令に従う」「期待に応える」。
 父の命令から、父の期待から逃げられない私。

J.I. いっぽうでは、すばらしい女性と結婚することが
 「お父さんの裏をかいてやる」
 ということでもあるんですよね。

ナガレ うん、うん。

J.I. 「父の命令から逃げられない」ことイコール
 「父の命令にそむく」というような
 メビウスの輪のような地点はあるかしら。

 弁証法的な、次元の高まった合一みたいな地点は
 ありますかね。

ナガレ うん、完璧になることというのは
 父の期待を裏切ることでもある。

 たとえば父は、
 「家から通える国立大学へ行け」
 とはいいながらも、
 東大文Iへ行けということは一度もなかった。

 それは、父から見て
 完璧な息子になってほしくなかったのだろう、
 ということだ。

 完璧になることは、
 父の期待に応えることであり、なおかつ同時に
 父の期待を裏切ることでもある。

 女にしても、
 すごくきれいな女と結婚したら、
 父はよろこぶし、しかしその一方では嫉妬もする。

 ふつう姑が息子の嫁に対して抱くような感情を
 おれの父親はおれの嫁に対して持つだろう。
 息子を、若く美しい女に取られてしまった母親のような感情を。

 その一方で、男としてはやっぱり
 ほかの男がすごく美しい女と結婚したら腹が立つ。

 かといって息子のおれが不細工な女と結婚したら
 父親は「うちの恥だ」と思う。

 だから、結局どんな女とも自分は一緒になれない。

 それが結果的にいちばん父を満足させることになっちゃうんだ。

J.I. つまりお父さまはナガレさんに
 「完璧になること」と「完璧にならないこと」を
 同時に求めているわけですよね

ナガレ そう。いわゆるダブル・バインド

……。
……。 
 
 
・・・「父から逃げられない私(42)」へつづく
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