VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

父から逃げられない私(56)塞翁療法の患者心理

父から逃げられない私(55)」からのつづき・・・

 
映像は2016年5月収録
 
ナガレ あのクリニックでは、 
 塞翁先生に好かれたい、というか、可愛がってもらいたい
 と思っている人たちが、
 かなりの割合で居て……、

 自分がそうではないとは言わないけども。

ぼそっと その「可愛がってもらいたい」というのは
 すごくわかりやすい言葉で
 治療共同体での人の動きを説明する
 すごく便利な言葉であると思うんですけれども、
 私なんかが口を開くと、
 「存在承認」とか、ちょっと堅い言葉になってしまうのです。

 その「可愛がってほしい」ために
 「自分の治療なんかどうでもいい」
 と考える患者が出てくるんじゃないですか。

ナガレ 可愛がってもらうことが治療だと
 勘違いしてるんじゃないかな。

ぼそっと そこ、重要ですねよ。
 可愛がってもらうことが治療だと勘違いしている。

ナガレ じつは内心で、
 君もそうじゃないかと思っているんだけど。

ぼそっと それは鋭いツッコミだと思います。
 だからちょっと棚上げにして、
 後で考察したいと思いますけど……

ナガレ おれは、そういう可愛がってもらいたいという人たちに
 距離を置いて、冷ややかに見てるんだけど。

 でも、自分がもし可愛がってもらえたら
 やっぱり尻っぽを振るんだろうな、とも思っている。

ぼそっと どのような対象であれ
 可愛がってもらえないより、可愛がってもらえた方が
 人は「いい」と思うものですよ。

 だけど、そこで葛藤があって、
 「可愛がられるために自分が殺される」
 もしくは、
 「自分の魂、自分の人生をかけた訴えが殺される」
 となると、
 「それは、ちょっと待てよ」
 という話が出てくる。

 なぜ、そこへ話を振ろうとしたかというと、
 さっきあなたが、
 ……それはこの場ではじめて聞いたことなんだけども、
 塞翁先生が
 ぼそっと池井多とはやっていけない
 とおっしゃった、と。

 私にとっては、すごく意味深で

 「やっていけない、って何だ。
  私は患者で、あなたは治療者でしょ」

 と言いたくなるのです。

 やっていけようと、やっていけまいと、
 治療してくださるのが仕事ではないのですか、と。

ナガレ そういう意味ではなくて、
 いっしょに仕事をしていく人としてはやっていけない、
 という意味で塞翁先生は言ったのだと思う。

 治療関係を打ち切るという意味ではなかったと思う。

 治療者-患者の関係は続けるけれども、
 ザストの仕事(*1)からはずれてもらう、という意味。

*1.私はザストに奉職していた7年余りのあいだ
1円も給与はいただいたことはない。
「原稿料を払う」と塞翁先生が約束したこともあったが、
結局こういう約束は一度も守られなかった。


ぼそっと なるほど、すごくそれは
 大事なひと言だと思いますね。

 では、それを言ったうえで
 先ほどの「可愛がってもらう」云々の話に戻りますけども、
 精神科の医療につながった時に
 患者が望むことの一つとして
 一つというよりはもしかしたら大部分かもしれませんが
 「可愛がってもらう」と。

 何なんでしょう、これは。

 ナガレさんはどういうふうにお考えですか。

ナガレ 他の病気だったら、治してもらったら
 もう(治療者には)さようなら。

 患者が医者に求めているのは、それだけ。

 でも、精神科の場合は、
 疑似家族のような関係を求めてしまうのではないか。

ぼそっと 私もその点をまな板の上に乗っけたいわけですよ。

 2016年の日本において精神医療とは何かと考えた時に、
 そういう要素は多分に見込まれている。

 しかし、だからといって、
 それに終始していいのか、という問題があります。

 つまり、
 「可愛がってほしい」
 という希求は、ほんらい母に求めるものですよね。

 しかし、それを治療者に求める。

 その過程を精神医学的には陽性転移などと呼ぶわけですが、
 いま、それが治療の段階として起こったとして、
 そこからあとはどうするのか、
 という問題になるのです。

 「可愛がってやるから、
 オレのデクノボウとなれ」

 「可愛がってやるから、
 オレの自己実現の道具となれ」

 「可愛がってやるから、
 オレの思うままに動く人形となれ」

 というほうへ収斂していくのが精神医療なのか、
 
 それとも、

 可愛がってやって、
 その人のなかに主体を育て、
 主体を下からあおって応援して
 その人なりの人生を歩むようにするのが精神医療なのか。

 そこから先はいろいろ分かれると思うのですよ。

……。
……。
 
 
・・・「父から逃げられない私(57)」へつづく
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