VOSOT ぼそっとプロジェクト

ぼそっとつぶやくトラウマ・サバイバーたちの生の声...Voice Of Survivors Of Trauma

父から逃げられない私(66)近親姦性虐待と実存・ジャン・ジュネとの比較

父から逃げられない私(65)」からのつづき・・・

 
 
ぼそっと池井多 私たちの患者村の
 近親姦優越主義というものを語るときに、
 私は毎回、まず申し上げるのは、
 私は女性たちが遭った近親姦被害を否定するわけでも
 なんでもない、ということです。

 フロイト『トーテムとタブー』のように
 一種のモデル思考として考えていただきたいのですが、
 近親姦被害者たちが重篤な後遺症を発症する
 理由の一部には、
 治療者をはじめとして周囲の社会が、

 「それはまちがっている、まちがっている」

 と指弾し、批判して、ストレスをあたえるから、
 ということは考えられないでしょうか。

 や「続・マヨルカ島の風」(*2)
 でお伝えしているように、
 たとえ近親姦であっても、
 本人が主体的にその近親姦関係に向き合い、
 後遺症として性風俗産業に従事してしまうなどの問題もなく
 暮らしている事例が、現にあるわけです。



 もし近親姦という事象が、
 塞翁先生が唱えるように、
 「科学的に」そうした後遺症に到るとするならば、
 これは動かしようもない反証事例であると思われます。


……。
……。


 「その生き方はまちがっている」
 とは、私も塞翁先生から言われています。(*3)


 
 そのように、治療者から
 「まちがっている」「まちがっている」
 と言われ続けることによって、
 患者の自己尊厳の気持ちがつぶされてしまう
 というのは、
 私が身をもって体験しています。

 「まちがっている」「まちがっている」
 と言われ続けていれば、
 「それでは私がまちがっているのか」
 と思うようになってしまう人間は多いものです。

 いつも窃盗症を語る時に私が引き合いに出す
 フランスの作家で
 ジャン・ジュネ(1910-86)という人がいます。

イメージ 1
晩年のジャン・ジュネ(72歳) 1983年

 ジャン・ジュネは、親に捨てられた孤児であり、
 小さいころに大人から、

 「お前はドロボウだ」

 と言われました。

 

 「お前はドロボウだ」

 と他者から規定されることによって、

 「そうか、ボクはドロボウなんだ」

 というアイデンティティが彼の中に生まれます。

 そして、やがて彼は成人して
 ドロボウになっていくのです。

 ドロボウでありながら、作家になりました。

 哲学者サルトルの表現によれば、
 「ドロボウについて書く」作家ではなく、
 「ドロボウとして書く」作家でした。


 これは、あらゆる社会的序列に関していえることでしょう。

 社会で差別されている集団があったとして、
 そこに属する人が、

 「どうせお前は○○○○だ」

 と外部からネガティブに規定されつづけていたら、

 「そうか、おれは○○○○なのか」

 と、かえってその差別を内部にとりこむかたちで
 アイデンティティを形成していきます。

 ○○○○のところには、
 じっさいに差別されている
 ありとあらゆる集団の名前を入れていただければよいと思います。

 このようにして、差別される集団で育つ者は、
 社会から差別されるにふさわしい行動をとる人間になってしまう
 という負の再帰性があるのです。

 生物的・肉体的にはまったく「上」「下」はないのに、
 外部から「下」に扱われ続けることによって、
 ほんとうに「下」になっていく、ということが
 この世界にはあるのです。

 集団的無意識によって、
 差別がどんどん増長されていきがちである、
 とも言えるでしょう。

 ……。
 ……。

 このような背景を考えますと、
 塞翁先生がいう「近親姦に特有な症状」とは、
 ほかでもない塞翁療法という精神医学が
 つくりだしている病気なのではないか、
 と考えられます。

 近親姦を特別あつかいし、人間的にも優位に置く
 塞翁先生の精神医療がうみだしている症状である、と。

 環境がつくりだしている病気である、というわけです。

 それが証拠に、マヨルカ島のサラさんは、
 塞翁先生に会ったことがないために、
 れっきとした近親姦であるのに、
 塞翁先生がいう症状は呈しておられません。

 近親姦性虐待で問題なのは、
 それが近親という関係だからではなく、
 子どもの主体を剥奪するかたちでおこなわれた行為だからです。

 ということは、性器の挿入や侵襲がなくても、
 子どもの主体を剥奪するかたちでおこなわれた行為の
 後遺症に苦しむ患者も、
 同等に治療しなければならないはずです。


……。
……。
 
 
 
 
・・・「父から逃げられない私(67)」へつづく
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